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誰が格闘技を殺すのか:ゴン格休刊の真相(3)(2ページ目)

2006年初頭から相次いだ、格闘技界のスキャンダルの数々は、ブームの終焉を告げる序曲なのか? 徹底分析のシリーズ第一弾は、休刊に追い込まれた老舗雑誌を蝕む影を追求する

執筆者:井田 英登


 また、ページをめくってみると判るが、この雑誌の活字量は半端ではなかった。宮地氏の作る『ゴン格』という雑誌は、情報の質と濃度を武器にしようとしていたからだ。ここにも、僕は「空が空なるが故」の哲学を感じてしまう。

 決して活字の勝った誌面と言うのではない。写真は写真で豊富であり、表紙のレイアウトからも伺えるように、主張の感じられるデザイナーを起用しているので、使うフォント、写真の配置といったデザイン面だけで言えば、非常に洗練された印象のページ構成にもなっている。

 ただ割を食うのは活字自体のサイズである。まず老眼の読者など想定していないのだろうなと思えるほど、級数を小さくしたキャプションサイズの活字が、圧縮された本文空間にびっしり埋め込まれているのである。

 またその内容が凄まじい。
 宮地氏が発言しない編集者である分、メインライターを務める人間の自己主張が突出してしまうのは当然の事なのかもしれないのだが、また宮地氏とは好対照のベクトルを持つ、強烈な自己主張を持ったライターが、最終期の『ゴン格』ではその位置に座っていた。長年ライバル誌である『格通』で健筆を誇った高島学氏が、その人である。

 この一年続いた宮地体制の『ゴン格』では、エース記者である高島氏の、「技術が判らないで試合が判るはずが無い」という主張が横溢したレポートが、この小さな活字でバシバシ掲載されるようになったのであった。特に組み技系の緻密な技術展開に関しては妥協がなく、分解写真で技のプロセスが解説され、さらに細かくなった活字でその流れが補足される。

 インタビュー記事でも選手の安手の建前を吹き飛ばすような、緻密な追求が投げかけられるし、海外記事では聞いた事の無いような日本未紹介の格闘家やイベントが、“当然の事”のように並べられるのである。

 休刊の一号前にあたる2006年3月号で、高島氏は、谷川貞治K-1プロデューサーへのインタビュアーとして、こんなコメントを発している。

 「僕の個人的考えでは、雑誌はもっと深くいきたい。何歳になっても身体を動かし、足の捌き方、目のフェイントを考えるような人達と突っ走りたい。今は格闘技が世間に広まりすぎて、その中間層、深い方とライトな層の間が開きすぎてるかなと、感じているんです。この中間層を狭めて行くことが、格闘技界には必要なんじゃないのかと」

 まさに『ゴン格』での記事の在り方は、彼のこの言葉に集約されていると言っていいだろう。格闘技を技術の側面から読み説き、その緻密なせめぎあいに固唾を飲むの世界を、ミドルレンジ層の格闘ファンにまで普及させたい。中学生のサッカーファンがいっぱしにオフサイドトラップの妙味を語り、F1小僧がヘアピンカーブのピンポイントのパッシングポイントを得意げに語る、あのスポーツ観戦の醍醐味を、あえて格闘技雑誌の、活字の力によって招来させて見せると彼は語っているのである。

 いかにも理想家である高島氏らしい言葉だったと思う。しかし、現段階での『ゴン格』の立ち位置は、あくまで「マニアック」なファン向けの“ハイエンド商品”でしかなかった。実践派の柔術マニアならいざ知らず、地上波放送のPRIDEをたまに観戦する程度のファンにとってはあまりに敷居が高すぎる、網羅的な濃い目の世界。とてもではないが“一見さん”では歯が立たない誌面であった。

 コアファンであれば一生物の宝物として書棚に飾っておきたい内容だったかもしれないが、一方商業活動として雑誌を発行する会社にとっては、単に部数の伸びない頭の痛い雑誌でもあった。その意味では、宮地氏の更迭と現『ゴン格』の休刊は、ある意味必然の流れであった気もする。

 だが最初にも書いた通り、日本スポーツ出版社と言う会社は、そもそもベースボールマガジン社に在籍していた現場の記者達が、会社の方針に異を唱えて創設した“現場志向”の会社である。創設者であり、プロレス記者としても名高い社長竹内宏介氏が長年トップであったこともあり、会社側が格闘ジャンルのニッチ性は十分に理解していたはず。にもかかわらず、なぜ専門誌の鏡ともいえるような現『ゴン格』が、休刊に追い込まれる事態が発生してしまったのであろうか。
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