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老兵は死なず~“フォー・タイムス・チャンピオン”ホーストが引退しない訳(下)(3ページ目)

年末恒例のDynamite!!で、現役王者シュルトに叩きのめされた、栄えある四覇王ホ-スト。しかしそれでも現役に固執する彼の執念の正体を読み解く。

執筆者:井田 英登

俺を引退させる若造はいないのか?

ホーストがK-1初戴冠を果たした時の年齢は32歳。奇しくもそれは、今のシュルトの年齢である。

だが、シュルトは2メートルを超える巨体を誇り、かつてミドルからヘビーへの階級アップに心血を注いだホーストの努力を全く必要としない、“約束された肉体”の持ち主である。何かにつけコンプレックスの激しいホーストの気性を考えると、この“ナチュラルボーンチャンピオン”に対して、徹底した敵愾心を抱いたのではないだろうか。

ホーストが「ファイトスポーツ」に書いたというコラムにしても、“大男、総身に知恵が回りかねだ、所詮ウドの大木だよ“といった、彼特有の嫉妬心が書かせたものに違いない。

先に僕は、ホーストの“フォー・タイムス・チャンピオン”の連呼が滑稽でしかないと書いた。だが、ホーストはその権威を広い一般社会が認めなくても、己の成し遂げて着た事に絶対の自信とプライドを持っていることは間違えない。

ただ自分が引退してしまえば、後に残るのは「自分だけが突出して4回もの独走優勝を許してしまった」未成熟で、社会的認知も浅い競技である。これがボクシングや相撲なら、既に確立した権威の上にあぐらをかいて、大物OBとして“過去の栄光”の中にぬくぬくと浸っている事もできるだろう。

だが、 自分が引退した途端、弱体化し雲散霧消してしまうような競技であったのなら、これまでその競技に捧げて来た十余年は、全く間違いであった事にしかならない。「後輩に叩きのめされて、もう出来ないと実感して辞めたい」と思うのは、極一般的なファイターも抱える心理だ。だが、悲しいかなその“完全燃焼させてくれる”時を、そして相手を、まだホーストは迎えていない。



アーネスト・ホーストvsレミー・ボンヤスキー
判定でホースト越えを果たしたと思ったら大間違い。僅差の黒星は「勝っていたはずだ」あるいは「ジャッジがおかしい」に格下げされて解釈される。希代の“負けず嫌い”を屈服させる圧倒的勝利とは、やはりKOの中にしかない。
レミー・ボンヤスキーが二度目のGP連覇を果たした2003年のGP決勝で、ホーストはこの若き皇帝と準々決勝で対戦しているが、このときは延長までもつれ込んでの判定負け。それも当時K-1で悪名を馳せた0.5点判定という微妙なシステムによるもので、ホースト側に負けた実感が無かったのは間違えない。むしろ、遥かに年齢差がある優勝者と対等に戦い抜いた自分に自信を持ったのではあるまいか。

そして、今年のGP覇者であるシュルトとの対戦でも敗因も瞼のカットであり、ホースト自身「負けたとは思っていない。左目のケガは7針か8針くらい縫った。次の試合がいつになるかは分からないけど、今回の試合でまだまだやっていけると自信が持てた」と、見事に往生際の悪いコメントを残している。

「今後もワンマッチで闘う?止めた方がいいんじゃないか?」とあざ笑ったシュルトに対して、「実際、試合を続けていくかはシュルトが答えを出すものではない。自分自身が出す。負けたとは思っていない」と強気の一点張りで言い返す。「恥も外聞も捨てた人間はどこまで往生際悪くなれるのだろう?」そんな意地悪の一つも言ってみたくなるほど、この“敗者”は尊大で、諦めが悪いのであった。
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