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老兵は死なず~“フォー・タイムス・チャンピオン”ホーストが引退しない訳(下)(4ページ目)

年末恒例のDynamite!!で、現役王者シュルトに叩きのめされた、栄えある四覇王ホ-スト。しかしそれでも現役に固執する彼の執念の正体を読み解く。

執筆者:井田 英登

“燃え尽き”から、「嫉妬心」で這い上がって来た男

だが、ここで思い起こすべきなのは、昨年の休養期間には「モチベーションが上がらない」と密かに身内に向けて泣き言を漏らしていたという証言だろう。

このセリフを信じるなら、“フォータイムスチャンピオン”という前人未到の記録を打ち立てたホーストは、間違えなくモチベーションを失い“燃え尽きて”いたと見るべきだろう。そのまま何もなければ、もしかして自分からリタイアを言い出したかもしれない。

しかし、自らの不在の間に王座をかっさらって行った、若いシュルトの存在は、そのホーストの燃え殻状態になっていた、諦めの悪い、彼本来の心情である“追撃者”の血に俄然火をつけたのではあるまいか? 

自分より遥かに恵まれた肉体と若さを持ち、技術的には鉈のような鈍重さで相手を吹き飛ばすだけの大男に、ホーストの内なるーー良く言えば「闘争心」、悪く言うなら「ひがみ根性」が刺激されたのではないかと、僕は見る。

分別もなくコラムでシュルトの悪口を書き、それに乗じてシュルトが言い返したと聞けば、ジムまで飛んで行って対戦を申し入れたりと、子供じみた攻撃の数々も、そうやって自らのなかの消えかかった火を必死にかき立てようとする行為だったと見れば、平仄が合う。

彼は、自らの怨念に見合う理由をもった、「敵」が欲しかっただけではないだろうか?

これまでハングリー精神だけを頼りに闘って来た人間は、ひとたび十分な成功を得てしまうと、再び激しい闘争の現場に戻って行く気持ちが持てなくなる。「もうこれで十分じゃないか」という内なる声に抗えなくなり、虚脱感だけが支配する「燃え尽き状態」になってしまうのである。恐らくホーストもそんな心情に捕われていたのだろう。だが、シュルトは唯一自らの「嫉妬心」(言い換えるなら「挑戦者魂」)を燃やせる“ムカつく”条件を揃えた存在だったのかもしれない。

だから、ホーストは本来ならやらなくてもいい低レベルなまでの舌戦を仕掛け、その「言った言わない」の不毛なやりとりの中に、自分を再びリングに押し上げるだけの「憎悪」のパワーを育てようとしたのではないか、と思うのである。


アーネスト・ホーストvsセーム・シュルト
シュルトのGP制覇が、ホーストを“燃え尽き”から蘇らせた。今後、大巨人を執拗に狙って、ストーカー並みの追撃を見せるのか? それとも一戦のみのあだ花で終わるのか? 
もちろん、シュルトにすればそんな陰湿な攻撃の対象にされても、つくづく迷惑で、うっとおしいだけだろう。しかし、格闘家という生き物は、単なるマンガのヒーローのような存在とは限らない。むしろ嫉妬心が人一倍強く、ひがみっぽく、そして勝利に執着する事著しい、“女々しさ”の塊のような人間が多いぐらいなのだ。

その意味で、ホーストは“この期に及んで”完全復活したと言ってもいい ーー少なくとも「嫉妬深い」メンタル面は見事に取り戻したと言えよう。

当然、往年の輝きは期待する方がおかしい。ホーストにはアトピー性の皮膚炎の持病もあり、いくら気持ちが逸っても、結局リングに上がれないというような事態も十分あり得る。しかし、「休息はそんなに長くはないだろう。また近いうちにみなさんの前に姿を現すつもりだ」と語ったこの迷惑な格闘オヤジが、今後どこまでその不穏当で悪意に満ちた「悪あがき」を見せてくれるか。同じ諦めの悪い中年男の一人として、密かに見守っていきたい気がして来てしまった。

(special thanks :戦況分析 山口龍)
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