三大祭り激突の後遺症は、やはり業界に大きな影を落とした。PRIDEの今シーズン初戦となる2/1大阪大会( PRIDE27)も、少なからずその余波を被った。
昨年秋から喧伝され続けてきた目玉カード、現王者エメリヤエンコ・ヒョ-ドルvs暫定王者アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラの「PRIDEヘビー級王座統一戦」が消滅したのである。関西の格闘技ファンは、年末の猪木祭の「ミルコvs高山」に続いてまたもや美味しいカードを見損なったことになる。
榊原社長は1月20日のマスコミ交流会で「10月末までヒョ-ドルと独占契約を結んだ」と発表。むしろそれは、実現が一時危ぶまれたこの対戦を阻む要素を解消したはず。にもかかわらず、このカードはあたりまえのように流産することになった。
これではあまりに平仄があわない。
主催者DSE側は四月のPRIDEヘビー級GPの開催を理由にあげる。
世界トップクラスの16選手を召集、六月、八月の3興行に渡って繰り広げられるこのトーナメント構想が浮上したことによって、ノゲイラ、ヒョ-ドルの両者が二月の王者統一戦に「慎重になった」というのだ。
だが、既に両者の対決は昨年3月のPRIDE25に実現しており、初対決ではない。さらに言えば両者の対決は既に、昨年秋段階で合意に達していたものでもあり、PRIDEヘビー級GP企画はそれと同時進行していたものである。二月の統一戦を消化した上で、両者がGPにコマを進めても全く問題はなかったはず。大会一ヶ月前に至ってのカード消滅は、むしろGPのハイライトカードになりうるこの一戦を温存したいと考える主催者側の意図と考える方が自然だろう。
だが、それにしてもこのカード消失には割り切れない異物感が残る。
当然、GPに目玉カードを残したいという理由はわかるが、「名勝負数え歌」という言葉もある通り、ヒョ-ドルとノゲイラなら何回対戦しても、面白い闘いが期待できるはず。ましてこのカード一本売りとなっていた大阪大会のグレードを思いきり引き下げるこの決定は、カードを出し惜しみしない事で築いてきたPRIDE人気にすら水を差しかねない。
むしろそこで裏読みをすべきなのは、年末の興行戦争の影響だろう。リアルファイト市場での選手の価値は、一戦一戦乱高下する。プロモーター側にすれば、敗れたファイターの査定をあげる事は考えられない。当然、敗れた選手はギャラダウン/もしくは現状維持が常道だ。だが、人気選手の欲しいライバルプロモーターにすれば、そこに付け込んでギャラアップを提示、人気選手を獲得できるというわけだ。昨年11月のノゲイラ戦で 敗北を喫したミルコが、猪木祭り転出を企図した前例を見れば判る通り、負けが込んで市場価値がドン底に落ちる前に、舞台を他所に移す事によって価格の下落を回避できる。ホームであったUFCでの戦績が低下したマーク・コールマンやセ-ム・シュルトらがPRIDEに移籍した動きなども同じメカニズムである。
大物対決は、諸刃の刃。一回の興行でみれば大きなビジネスチャンスだが、うっかりすると選手間の生態系やパワーバランスを崩すピンチでもあるのだ。