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K-1 MAX世界王者・魔裟斗とライバル達の光と影 「魔娑斗~欲望とストイシズム」(4ページ目)

ついに二年越しの世界王座を奪取。今やトップクラスの注目を浴びる格闘家となった魔裟斗。その“成り上がり”を支えた強烈な野心の軌跡と、並み居るライバルを蹴落としてきたエネルギーの源泉を探る。

執筆者:井田 英登


一方、この大会で復活を期したはずのライバル小比類巻は、なんと一回戦で伏兵の安廣に判定負け。ここに至って両者の間には明らかなポジションの違いが生まれていた。

事実、黒崎道場での修業生活も一年近くなり、小比類巻もさすがに自らのロマンティシズムが呼び寄せた過誤に気付きつつあった。なにしろ、黒崎道場での日課といえば、すべてが個人練習。スパーリング一つやらず、ただ二階の道場でサンドバックを黙々と二時間も三時間も蹴り続けるだけという“超絶体験”だったという。いかに超人を追及する小比類巻にしても、効果を疑わざるを得ない。ただそれも自らの選んだ道であり、撤退の決意を黒崎氏に告げるまでにはかなりの勇気が要ったともいう。

魔裟斗の舌鋒も、1年前のそれはまだ追いすがるライバルを突き放すための爆弾的なニュアンスが感じられたが、既に周回遅れとなった相手に投げる言葉も惜しいとばかりとなっており「何も言うことはないですね。もう誰もライバルって言う人もいないと思うし、みんな判ってるとおもうんで」と言葉すくなに述べるにとどまった。

そして、魔裟斗にとって残す標的はクラウス一人となったのである。


■「やっと世界一になることができました」


世界一の高みというのはどこにあるのだろう。

7月5日さいたまスーパーアリーナでの「K-1 WORLD MAX 2003 ~世界一決定トーナメント~」でついに優勝を飾った魔裟斗の笑顔を見ながら、僕は漠然とそんな思いに駆られていた。

デビュー当初の選手にとって、世界は目の前にマッチメイクされた対戦相手が全てである。二戦目で小比類巻に敗れた魔裟斗にとって、世界はその時点で、常に小比類巻に進路を封じられた隘路となったであろう。しかし、自らの手でその障害物を一つ、また一つと押しのけて行くことによって、視野が広がり、そして可能性というものが広がっていく。過去の敗戦や、目の前のライバル、そして周囲の評価、あるいは人間関係。あらゆる障害を押しのけるたびに、人は自由になる。自分を捕らえていた枠組みや、制約がどんどんはずれていく。無論誰もが、全ての障害を押しのけられる訳ではない。高みに昇れば昇るほど条件は厳しくなり、立ちふさがる障害の重圧もただ事ではなくなる。大抵の人間は、ある程度の面積を手にすればその領域に満足して前進を止める。止めざるを得なくなると言ってもいい。

魔裟斗というのは、人一倍その自由を欲望し、前進に次ぐ前進を繰り返してきた男だ。

高校時代から集団生活の制約に耐え兼ね、一年で中退。そのまま街のチーマーとして就職もせずに自由を謳歌し、たまたま始めた格闘技に才能を見いだして全日本キックへ。それでも組織の一員としてとどまることが出来ず、フリーランサーへの道を選ぶことになったわけだが、常に人一倍の野心と、そして欲望がそんな彼の推進力となってきた。


負ければどうあってもその借りを返すまでひたすら相手に食い下がり、勝てば途端にそれを過去と片付ける。その傲慢なまでのバイタリティの裏には、当然人の何十倍という努力や、才能の研鑽も当然あった。だが、努力の量で人に褒められるだけでは、彼の飢えた魂は決して満足できない。自分の力でもぎとった「結果」しか彼は欲しがらないのだ。

その果てしない飢えと渇きに忠実に走り続けてきた末に、魔裟斗は、K-1という権威ある場所の一つの頂点に立つことに成功した。

1年前、撃ちあえば自分が下がるしかできなかったクラウスを、正面からの撃ち合いで圧するまでに成長した魔裟斗。まさに、己の野心を、肉体で具現化することに憑かれた男と呼んでもいいだろう。
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