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3.30ミルコ戦敗北で露呈した“ザ・ビースト”の脆さ 「ボブ・サップ無敵神話を剥ぐ」

3.30のミルコ戦に敗れたボブ・サップ。早くもブーム終焉の声も聞こえる今、半年の封印を解いて、All aboutがお贈りする“サップ現象”の格闘技的読み方。

執筆者:井田 英登





■シンデレラボーイ症候群が引き起こした“サップ現象”

正直に言おう、昨年末からのボブ・サップブームほど不愉快なものはなかった。

昨年10月、いきなりK-1GP初戦で"3times champion(当時)"アーネスト・ホーストを撃破。続く12月の決勝トーナメントでは、セーム・シュルトの欠場によって再戦の権利をもぎとったホーストを再び返り討ちにした。ボブ・サップの存在はこの二連戦を通じて、最大限にクローズアップされることになった。自らの拳を破壊するという、これまた破格の怪我でトーナメント自体は棒に振ったものの、「K-1GP3回制覇チャンピオン」を二試合連続でノックアウトした事実は、むしろそれ以上の幻想を彼に与える事になった。

総合格闘技でも、夏のDynamite!を舞台に、PRIDEヘビー級王者アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラと互角に渡り合った怪物ルーキーの存在は既に格闘技ファンに十分すぎるほど認知されていただけに、この二連戦は「サップ無敵神話」を最大に引き伸ばしたと言えるだろう。返す刀で、年末の猪木祭りに登場したサップは、当時プロレスラーとして最も勢いのあった高山をいとも簡単に沈め、その人気を決定的なものにした。

まさにシンデレラボーイ誕生と言うにふさわしい華やかな戦績である。

年が明けてからの鬼神のような勢いの一般マスコミ露出は、みなさま御存知の通りである。ヒーロー不在の沈滞した時代の空気を象徴するように、あれよれと言う間にサップの名前は、格闘技シーンを飛び越えてお茶の間にまで浸透していった。

時代の空気について、僕なんかが指摘する立場ではないが、昨今の極端な競争社会の中では、勝ち組と負け組の格差があまりに明快になり、普通人の僕らは一様にペシミスティックというか、少し拗ねた気分を抱えるようになった気がする。

具体的に言えば、こつこつと十年ひたすら技術研鑽の努力をしてのし上がったホーストの様な生き様に説得力が失せて、ウサギと亀の例えではないが、天賦の肉体だけでポンと中央シーンに躍り出た、シンデレラボーイのサップのような存在が、ホースト的ガンバリズムを凌駕してしまう光景に、リアリズムを感じる空気が支配的になってしまっている気がする。

今どきコツコツやっても勝ち目はないから、変に頑張ってエネルギーを使うより、宝くじでも買って幸運を祈ってる方がまだマシじゃないの? ーー全てのファンがそうだとは言わないまでも、かなりの部分、そんな時代の無力感/倦怠感が、ボブ・サップ人気を異常なまでに押し上げたのではないかと僕は本気で思っている。

要はホーストを吹き飛ばすサップを見て「すっげー」と手放しではしゃいでしまう気分の中には、“ウサギがぴょんぴょん跳ねてくのに、カメがいっくら頑張ったって勝てる訳ないじゃん。俺達も亀だもん。生まれ付きが違うやつに逆らうのが馬鹿なんだよ”みたいな意地悪で、ちょっと拗ねた諦めが混じってないか? と言いたいのである。

無論、僕とて、シニカルな笑いを浮かべてひたすら「俺は4times championだぜ。リスぺクトしろよ」と神経質に自分の価値を主張する陰気なホーストより、明るくマンガチックに豪快な縫いぐるみの怪獣を演じてくれるボブ・サップの方が面白いと思うし、見ていて飽きない。友人にするなら、迷わずサップを選ぶだろう。

だが、格闘技畑で飯を食い、このジャンルがスポーツとして正当に認知されることを望む人間としては、一種マンガ的ですらあるサップの爆発力を手放しで褒めるような提灯記事を書き、へらへら笑っていてはいけない気がするのだ。

なにも、サップを不当に貶めて喜びたい訳ではないが、たとえばさいたまと東京ドームの、ホーストvsサップの二番勝負は、公平なスポーツの結果として楽しんでしまっていい光景だったとは思えないのである。その結果爆発的に広がったサップの、この異常とも言える爆発的な人気の行く末も含めて、僕は脳裏に鳴り響く「危険信号」をひしひしと感じていた。

たしかにサップの戦いぶりは、パワフルではあるが、技術的には明らかに未熟だ。「スゲーからいいじゃん」「おもしれーからイイじゃん」で片付けてしまう気分にはなれないし、なってはいけないと思っていたのである。

「アルゼ K-1 WORLD GP2003 in さいたま」
 2003/03/30
 [K-1] さいたまスーパーアリーナ



 <メインイベント>
 ×ボブ・サップ(米国/チーム・ビースト)
 ○ミルコ・クロコップ(クロアチア/クロコップ・スクワッド)
 1R 1'26" K.O.(左ストレート)
 


 

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