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3.30ミルコ戦敗北で露呈した“ザ・ビースト”の脆さ 「ボブ・サップ無敵神話を剥ぐ」(5ページ目)

3.30のミルコ戦に敗れたボブ・サップ。早くもブーム終焉の声も聞こえる今、半年の封印を解いて、All aboutがお贈りする“サップ現象”の格闘技的読み方。

執筆者:井田 英登

■己の弱点に目をつぶる慢心

試合後の記者会見では、このサップのダウンに関して角田ルールディレクターがいみじくもこう語っている。

「いままでのボブやったら立ってきたんちゃうかなと、見てて思いましたけどね。今回は練習を積み重ねてきたという“心のよりどころ”がなかったから立ち上がれなかったんとちがいますかね? 僕も直接かれの練習を見てるわけじゃないんで一概に練習不足とはは言い切れませんけど、TVの仕事がいくらあるからと言っても僕らの本業はファイターですからね。本当に勝ちたいのであれば、僕なら断っても練習します」と。

たしかに、年末年始以降、十社以上のCMキャラクターに採用され、各種のプロモーションも含めてテレビマスコミに出まくったサップである。練習不足のきらいはあったのだろう。睡眠時間も減り、165キロの体重が一気に10キロ近く減ったことも事実である。しかし、宮本正明の証言によればサップはどんな多忙時でも練習は一日四時間、可能なかぎりキープし続けて来て居たはずだという。だとすれば、それをもって練習不足の一言で切り捨ててしまうのは、酷ではないかという気がする。

あくまで時間や量ではなく、その練習の質にこそ、サップ敗退の要因があると僕は考える。

謙虚な努力の人であり、またクレバーでもあるサップは、逆に意識過剰な程アスリートたらんと“努力”したはずなのだ。このバブル的な人気爆発に「天狗」になるまいと、自らを戒め、意識を高め、自分の本来の商品価値である“格闘技選手”としてのポテンシャルを落とすことなく、逆に必死に高めようとしたのだと思うし、実際去年の夏ジョシュ・バーネット達と地道なトレーニングに励んでいた彼はそんな選手であった。(その一端は、年末の高山戦での、“らしくない”テクニカルな戦いぶりとしても現れていると思う。)

問題は、その“努力”が“強さ”に結びつかなかった皮肉にある。

格闘技に限らず、戦いというものは武器を増やしただけでは常勝をキープすることは出来ない。自らの弱点を知り、そこを突かれた場合の最悪のシミュレーションをしながら、その上に立ったリスクマネージメントをしなければ、いつまでもただの“攻めダルマ”で終わってしまう。殴られる痛みをわが身に焼き付け、それを克服してチャンスを作り出す柔軟な発想も必要だし、不利な状況を想定した二の手、三の手を引出しの奥にしまい込んでおく準備も必要だろう。角田氏の言う“心のよりどころ”になる練習は、そういう事も含めた“限界をさらに踏み越える”質の高い練習を指すのではないだろうか。

■己に脅える“勇気”

強くなれば、人は時に慢心する。
慢心した結果、これまでの虚心坦懐な自分を忘れ、落とし穴に落ちる。

サップとて例外では無かったのだ。
ただ、サップの慢心は、通常のそれとは全く逆のベクトルで働いた。それは攻撃のみを想定し、己の弱点に目をつぶった慢心とでも言うべきか。

弱点を含めて己を知り抜き、そこに過信を持たないこと。そして夜も眠れないほど自分の弱点に脅え続ける“勇気”こそが、格闘技選手を才能を越えた次の段階に押し上げるのだと僕は思っている。今回そこまでの緊張と思い入れを持ちえなかった結果、サップは己の強さに溺れ、そして自滅したのだ。

怪物だ、ヒーローだと、安易に彼を持ち上げて喜んでいる皆さんはお忘れかもしれないが、サップは格闘技ジャンルに足を踏み入れてまだ二年目のグリーンボーイなのである。余りある才能と天賦の肉体を持った彼には、格闘技選手としてまだまだ学ぶべきことが山ほどある。ただそれだけの話なのだと僕は思う。一つや二つばかりの勝敗で「時代が変わった」の、「ヒーロー交代」だのと浮かれ騒ぐのはもう止めよう。

この失敗を糧にして、次の目標をどうクリアしていくのか? 

あくまでいち格闘技選手として“等身大のボブ・サップ”を、これからも見守っていくのが、我々格闘技ファンの本来の立場であるという気がする。
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