■ヒクソン招聘のための三つの条件
PRIDEが二回、そしてコロシアム2000で一回、計三回の東京ドーム大会がヒクソンをメインイベンターに迎えて開催された。それは彼の提示した1億円をこえると言うギャランティをまかない得る唯一のハコだったからだ。ヒクソンの求めた条件はほかにもある。まず、ヒクソンにとっても対戦相手にとっても公平な中立の舞台である事。要するにリアルファイトの公正な舞台が準備され、それをビジネスとしてきちんと運営できる公正な団体である事だ。(そしてもう一つの、そして最大の条件は、対戦相手をヒクソンが認めるということだが)
ギャラ/リアルファイト/対戦相手。
その三つのハードルをクリアできる舞台にしか、ヒクソンは上がらない。
UFOもこれまで四回の大会を開催した過去があるのだが、その内容はあくまでプロレスの興行であり、ヒクソンの要求を満たすものでは当然ない。だが、それでもヒクソン招聘の一番手に挙げられるのには秘密がある。
実はUFOの社長川村氏は、芸能界で絶大な影響力を誇る田辺エージェンシーの副社長であり、同時に自らもケイダッシュという芸能プロダクションも率いる立場にある。(ちなみに大会当日、ゲストリングアナウンサーを勤めた坂口憲二、渡辺謙、高橋克典らのタレントはすべてケイダッシュ所属)また格闘技界でも、PRIDEでフィクサー的なポジションを勤める作家の百瀬教博氏とは学生時代からの同窓生でもある。今年六月には、新日本プロレスの取締役にも就任するなど、芸能界/格闘技界を通じて大きな影響力を持つ人物なのである。
その豊富なコネクションを活かしてたからこそ、今回のゴールデンタイム生中継も成立したわけだが、一方で川村氏は長年ヒクソンの日本での窓口を勤めてきた。実際、その交流の結果、ヒクソンは川村氏を「BOSS」と呼び慕う関係にある。いわば、ヒクソンを日本のリングに復帰させる事のできるキーパーソンこそ川村社長なのである。
■PRIDEとのヒクソン争奪戦勃発
これまで、PRIDEが桜庭とヒクソンの対戦を水面下でオファーし続けて来た事は巷間にも知られる事実である。そもそもヒクソンの存在を、格闘技界のローカルヒーローから、世間一般に通じるメジャースポーツ選手の位置まで押し上げたのは、東京ドームに置ける高田延彦との2連戦があってこその話である。いわばPRIDEにとってヒクソン・グレイシーというカリスマを育てたのは自分たちであるという自負がある。しかし、3度めのヒクソンのドーム出場を伏兵のコロシアム2000に攫われた屈辱は、未だに拭いがたいものがあるに違いない。ようやく桜庭和志というナショナルブランドが育った今、ヒクソンに桜庭をぶつける事で、その収支決算をつけようと考えるのは自然な動きであろう。
2000年からアントニオ猪木をPRIDEのファイティングプロデューサーに据え、小川、藤田、安田ら選手はもちろん、川村社長の直属といってもいいU女史をブッカーとして迎えたことも、いわばその”最終到達点”を睨んでの伏線として働いている。猪木を表の顔に据え、U女史がコーディネートするブラジリアントップチームをトップ待遇で起用し続けてきたPRIDEにとって、猪木/川村共同体は既に身内の組織と認識があったにちがいない。したがって、その川村社長がヒクソン招聘の受け皿となるUFO Legendの旗揚げに乗り出すという事態は晴天の霹靂であり、また、あってはならない最悪の事態だったわけだ。要するにBTTの離脱騒動をフックにして表面化した両者の思惑の交錯は、実は水面下に眠るヒクソンとの交渉権をめぐる暗闘だったと言い換えてもかまわないだろう。
だが、川村社長は一回の大会で、UFO Legendの格闘技大会としての実質、そしてドームでの興行が行える資金力、そして過去最高級といってもいい条件でのテレビ放映と、三つの優越性を証明してみせた。いわば今回の東京ドームは、ヒクソンが立つリングとしてのクオリティを証明するプレゼンテーションの舞台でしかなかったのである。