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〈片岡義男コレクション〉の愉悦(2ページ目)

アメリカ文学の紹介者にして、ハードボイルドや恋愛小説の名手でもある片岡義男。その傑作群を収めた〈片岡義男コレクション〉が刊行中です。

執筆者:福井 健太

選び抜かれた珠玉集
〈片岡義男コレクション〉

『さしむかいラブソング』
恋愛小説をテーマにした〈片岡義男コレクション〉第2巻。禁欲的な語りが印象的な逸品揃いだ。
片岡義男の小説には入手困難なものも少なくないが、そこから厳選された傑作群を全3巻にまとめたシリーズが〈片岡義男コレクション〉である。各巻を順に見ていくと、第1巻『花模様が怖い』には8編のハードボイルド、第2巻『さしむかいラブソング』には7編の恋愛小説が収められているが――犯罪譚と恋愛譚の違いはあるものの――両者は極めて近しい味わいを備えている。事実だけを淡々と記していくハードボイルドの文体、最適化された視点と言葉の選択、乾ききったプロットなどが交わることで、ここには息苦しいほどの張り詰めた空気が充満している。そこに現出する抑制された情感こそが、片岡作品の強力な持ち味なのである。

第3巻『ミス・リグビーの幸福』は〈アーロン・マッケルウェイ〉シリーズ全11編を網羅したハードボイルド連作集。1976年から1984年にかけて『ミステリマガジン』に発表され、1985年に単行本化された後、1987年に『ミス・リグビーの幸福』『ムーヴィン・オン』の二分冊として文庫化された"幻の名作"の復刊である。カリフォルニアに住む21歳の私立探偵アーロン・マッケルウェイと、それぞれに孤独を抱えた人々の出逢いを描く――という内容からも解るように、彼は必ずしも"名探偵"ではなく、さほど複雑な事件が起きるわけでもない。それでも本書が魅力的なのは、クールな私立探偵と依頼人たちの"接触面"として綴られる物語たちが、いずれも屈託のない爽やかな青春小説になり得ているからだ。人々の営みを片岡テイストでスケッチした"画集"として、これから片岡作品を読もうとする方――とりわけミステリーファンには格好の1冊と言えるだろう。

【関連サイト】
〈片岡義男コレクション1~3〉文庫JAより三カ月連続刊行!早川書房公式サイト内のニュースリリースです。
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