ミステリー小説/ミステリー小説関連情報

新堂作品の二つの顔(2ページ目)

"黒"と"白"の作風を持つ人気作家・新堂冬樹。その作品世界に迫ります。

執筆者:福井 健太

身勝手な殺人者が暴走する
『君が悪い』

『君が悪い』
身勝手な理由で殺人を繰り返す男。彼の精神は"自分は悪くない"という観念に染まっていた。独特のユーモアに満ちた異色の犯罪小説。
新堂冬樹の最新刊『君が悪い』は、約1年半にわたって『小説宝石』(2007年4月号~2008年8月号)に連載された犯罪小説。系列としては"黒新堂"に属する物語だ。鬱屈した日々を過ごす中学教師の竹林英太は、馴染みのホステス・桃華に言い寄る男――荒木鉄をはずみで殺害してしまう。死体を切断して処分しようとした竹林は、冷蔵庫の"それ"に気付いた桃華をやむなく扼殺し、2つの死体を目撃した(と思われた)隣人にも凶手を伸ばしていく。次々に死体を増やしながらも、竹林は悪いのは自分ではないと呟き続けるのだった。

偏執狂の連続殺人を冷ややかに描く物語――と書くとシリアスに見えるが、犯人の身勝手さと展開のスピード感を通じて、本作は底意地の悪いブラックユーモアに満ちた"怪作"になり得ている。チープな犯人はコメディアンであり、連鎖的な殺人はいわばシチュエーション・コントなのだ。異常なまでに責任を忌避する竹林は新手のサイコキラーだが、その造形はデフォルメされた現代社会の風刺としても興味深い。ずっしりとした読後感やディープな味わいはないものの、明快なエンタテインメントとしての構成は評価されるべきだろう。とりわけ"黒い笑い"の愛好家にはお勧めの1冊なのである。

【関連サイト】
新堂プロ…新堂冬樹の経営する"新堂プロ"の公式サイトです。
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