井上夢人、３年ぶりの最新短編集(2ページ目)

"幻の作品"を取り揃えた
埋蔵品のような珠玉集

単行本未収録の10編を取り揃えた"お蔵出し"作品集。巻末には大沢在昌と著者の対談も収められている。

井上夢人の最新刊『あわせ鏡に飛び込んで』は約３年ぶりの単行本――といっても新作ではなく、1990年代前半に発表されていた（もちろん単行本未収録の）10編を束ねた文庫オリジナル作品集。様々な媒体に掲載されたものだけに、内容がバラエティに富んでいるのは本書の大きな見所と言えるだろう。

女の執念を綴った恐怖譚「あなたをはなさない」、倒叙ミステリーに捻りを加えた「ノックを待ちながら」「千載一遇」、ブラックな奇想ＳＦ「わたしは死なない」など、本書には多種多様なプロットが詰め込まれている。しかし一番の注目作は"ミステリー・ジグパズ"企画のために書かれた表題作に違いない。制約に応じてゲーム的な趣向を凝らすセンスに定評のある著者が、ジグソーパズルとミステリーを絡めるという（いささか強引な）課題をいかにクリアしたか――その技巧の冴えを味わえる傑作に仕上がっているのだ。

自由度の高さと透明な文体を通じて、本書の収録作には（一部を除いて）時代性に染まらない普遍性が備わっている。気の利いたショートストーリーの愛好家にお薦めの好著なのである。

【関連サイト】
・夢人．ｃｏｍ…井上夢人の公式サイトです。