ミステリー小説/ミステリー小説関連情報

〈郷原部長刑事〉シリーズの再訪

結城昌治の初期を代表する〈郷原部長刑事〉シリーズが再刊されました。謎解きとユーモアを愛する人には必読モノの傑作揃いです。

執筆者:福井 健太

多彩なミステリーを綴った才人

『ゴメスの名はゴメス』
失踪した同僚を探すためにサイゴンへ赴任した男の闘いを描き、不安な時代を活写してみせた国産スパイ小説の歴史的名作。
結城昌治は1927年東京生まれ。早稲田専門学校を卒業後、東京地方検察庁の事務官を務めながら小説を書き、1959年に「寒中水泳」で第1回EQMM短編コンテストに一席入選。同年に初長編『ひげのある男たち』を発表し、1963年には『夜の終る時』で第17回日本推理作家協会賞を受賞。1970年に『軍旗はためく下に』で第63回直木賞、1984年には『終着駅』で第19回吉川英治文学賞を獲得している。1965年から1969年にかけて書かれた〈私立探偵・真木〉三部作は国産私立探偵小説の嚆矢と称されるが、それ以外にも〈郷原部長刑事〉シリーズや『白昼堂々』に代表されるユーモアミステリー、ユーモラスなハードボイルド〈佐久〉シリーズ、スパイ小説『ゴメスの名はゴメス』などの多彩な傑作を残した。1996年に68歳で死去。ハードボイルドの印象が強い作家ではあるものの、その作風はいたって柔軟なものだったのである。

犯人当て小説の秀作
『ひげのある男たち』

そんな著者の初期の代表作――〈郷原部長刑事〉シリーズがまとめて再刊された。髭がトレードマークの部長刑事・郷原左門の活躍する本シリーズは、ユーモアと正統派の謎解きを兼ね備えた軽快な本格ミステリーだ。著者の初長編でもある第1作『ひげのある男たち』では、タイトル通りに髭が重要な役割を果たしている。アパートで女性の変死体が発見され、自殺に見せかけた殺人だと見抜いた四谷署の郷原部長刑事は、捜査の過程で次々に"ひげのある男"の情報を耳にする。犯行当日に現場付近で目撃された男、被害者と頻繁に逢っていた男――その人物が犯人なのだろうか? 容疑者は3人浮上するものの、決め手が掴めないうちに第2の殺人が発生し、そこへ思いがけない"名探偵"が現れるのだった。

本作はユーモラスな語り口で書かれているが、中盤に示される捜査メモや解決編からも論理性の強さは明らかだろう。手軽に楽しめる一級品のエンタテインメントにして、周到に構成された犯人当て小説。本格ミステリーの愛好家にはとりわけ強くお勧めしたい1冊なのだ。

次のページでは『長い長い眠り』『仲のいい死体』を御紹介します。
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