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〈郷原部長刑事〉シリーズの再訪(2ページ目)

結城昌治の初期を代表する〈郷原部長刑事〉シリーズが再刊されました。謎解きとユーモアを愛する人には必読モノの傑作揃いです。

執筆者:福井 健太

ユーモアと哀感を漂わせた第2作
『長い長い眠り』

『長い長い眠り』
奇妙な姿で発見された死体の素性を追う郷原は、殺害動機を持つ女たちの存在に辿り着く。苦いユーモアを称えたシリーズ第2弾。
〈郷原部長刑事〉シリーズの第2作『長い長い眠り』はこんな物語だ。明治神宮付近の林で発見された死体は、ワイシャツと白いネクタイを着けた重役風の男で、下半身は(何故か)パンツ一枚だった。被害者の持っていた地図をもとに埼玉県の平林寺を訪れた郷原は、被害者が俳句会の一員だったことを突き止めるものの、出てくるのは男女関係の縺ればかりだった……。

捜査の過程で怪しげな人物が浮上し、第2の殺人が発生し、思いがけない"名探偵"の登場と犯人の告白文で幕を閉じる――というパターンは前作によく似ているが、微妙な詩情とペーソスを感じさせるのは本作の特徴だろう。最後の一節で語られる「生きている者のそそっかしさ」は、人間の物哀しさを端的に示した名フレーズにほかならない。

温泉地を舞台に描くシリーズ最終作
『仲のいい死体』

『仲のいい死体』
温泉騒ぎに沸く田舎町で起こった偽装心中事件。不自由な環境下で奮闘する郷原の名推理。三部作の末尾を飾るユニークなミステリーだ。
シリーズ第3作『仲のいい死体』では、山間の町で起きた変死事件の顛末が描かれている。娘の療養のために東京を離れた郷原は、山梨県の腰掛町で部長刑事として勤務していた。葡萄畑から温泉が噴き出し、町に大勢の客が押しかける騒ぎになった矢先、寺の境内で男女の死体が発見される。温泉地を持つ未亡人が妻子持ちの中年巡査と心中するだろうか――疑惑を抱いた郷原は真相を探ろうとするが、周囲の人々はまったく頼りにならない。現地の医師は役に立たず、同僚には予算を考えろと窘められるのだった。

町の描写がすこぶる珍妙なのとは対照的に、被害者たちの殺された理由はいたって冷酷なものだ。本作ではついに郷原が探偵役を務めているが、これは最後に花を持たせようとする著者の配慮だろう。もっとも郷原は〈佐久〉シリーズにも脇役として出演しており、これが"最終公演"というわけでもない。他人に振り回される生真面目な男――著者がそんな郷原を愛していたことは著作の随所に見て取れるのである。

【関連サイト】
「結城昌治」(Wikipedia)…Wikipediaにおける「結城昌治」の項目です。
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