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ジャック・ケッチャムの鬼畜な世界(2ページ目)

ジャック・ケッチャムは"鬼畜系"として知られるホラー作家。その情け容赦のない作品群は独特の刺激を備えています。

執筆者:福井 健太

ファン待望の初短編集

『閉店時間』
4編を収録した日本オリジナル短編集。連続強姦殺人魔の犯行記録や異色のウエスタンなどをまとめて楽しめる。
ケッチャムの長編は8冊が邦訳されているが、最新刊『閉店時間』は初めての短編集。厳選された4編を収めた日本オリジナルの1冊である。ブラム・ストーカー賞を受賞した表題作は、不倫を精算した女性バーテンの店に強盗が押し入るというストーリー。"9.11テロ"の影響下で書かれた作品だけに、この著者にしては叙情性を感じさせるのがユニークだ。「ヒッチハイク」では――車がエンストを起こしたために――ヒッチハイクで帰宅しようとした女性弁護士がかつての同級生の車に拾われ、そこへ3人の犯罪者が乗り込んでくる。「雑草」はレイプが趣味のカップルが少女を誘拐・強姦(時には殺害)していく過程を描いたもので、著者は「これまで書いたなかで、いちばん不快な作品」と評している。ケッチャムに鬼畜性と嗜虐性を求める人には必読モノの1編だろう。「川を渡って」は1848年のアリゾナを舞台にしたウエスタン小説。売春窟から脱走した女の妹を救うためにガンマンと新聞記者が活躍する――のだが、売春窟の異常さと皮肉な結末は尖ったものを感じさせる。ここにも著者の感性は強く刻まれているのだ。

選び抜かれた4つの物語を並べることで、本書にはケッチャムの多彩な持ち味が凝縮されている。長編に挑む前に予習として本書に接しておけば、苛烈な作品世界に対する免疫が身に付くかもしれない。以前からの愛読者はもちろん、そうでない人にも"ワクチン"としてお勧めの傑作集なのである。

【関連サイト】
The Official Jack Ketchum WebSite…ジャック・ケッチャムの公式サイトです(全文英語)。
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