本格ミステリー界きっての異才・山口雅也

『生ける屍の死』
死者の甦る村で起きた連続殺人。犯人の目的は何なのか? 奇抜な設定とロジックが結合した名作中の名作。
最も野心的に"実験"を行ってきた本格ミステリー作家は誰か――この質問には様々な回答が考えられるが、山口雅也がその筆頭格であることは確かだろう。死者が甦生する世界の殺人劇、大胆なメタフィクション、因果律の考察などを描いてきた山口は、該博な知識と思索性によってミステリーの可能性を押し広げる開拓者にほかならない。その作品群は極めて特異な存在でありながらも、本格ミステリーの歴史に多大な影響を及ぼしてきたのである。

山口雅也は1954年神奈川県生まれ。早稲田大学在学中から書評家として活動し、出版社勤務やゲームブックの執筆などを経て、1989年に『生ける屍の死』で小説家デビュー。パンク刑事の活躍する〈キッド・ピストルズ〉シリーズで人気を博し、1994年に刊行された『日本殺人事件』で第48回日本推理作家協会賞を受賞。『ミステリーズ』『マニアックス』『モンスターズ』と続く〈M〉シリーズ、世界の"偶然"を題材にした『奇偶』など、実験的な作品群で知られる個性派作家だ。そんな山口の最新刊『キッド・ピストルズの最低の帰還』は、13年ぶりに刊行された同シリーズの第5作(短編集としては4冊目)にあたる。

パラレルワールドの名刑事

『キッド・ピストルズの冒涜』
動物園長とカバが殺された事件の真相は? 実業家の死体が石膏で固められた理由は? 斬新な設定で書かれた〈キッド・ピストルズ〉シリーズ第1作品集。
最新刊の話を始める前に、まずは〈キッド・ピストルズ〉シリーズの概略を説明しておこう。物語の舞台は並行世界の英国であり、そこでは民間の私立探偵が警察官よりも上位に置かれている。キッド・ピストルズ刑事と相棒のピンク・ペラドンナは、私立探偵の指示を受けて捜査をする立場にある――が、キッドは"名探偵"に先んじて事件を解決していく。いかにもパンクを基調にした作風らしく、権力を持たない名探偵が警察を出し抜くという類型が裏返されているわけだ。さらにシリーズの特徴としては、全編のモチーフにマザー・グースの童謡(の歌詞)が使われている点も挙げられる。これもマニアのツボを熟知した趣向と言えるだろう。

1991年に上梓された『キッド・ピストルズの冒涜』は〈キッド・ピストルズ〉シリーズの最初の作品集である。「『むしゃむしゃ、ごくごく』殺人事件」「カバは忘れない」「曲がった犯罪」「パンキー・レゲエ殺人」の4話が収められており、意外な動機が判明する「カバは忘れない」と異様な価値観をベースにした「曲がった犯罪」はとりわけ秀逸。本格ミステリー好きを自認する人には必読モノの1冊だろう。1993年に発表された『13人目の探偵士』は1987年に刊行されたゲームブック『13人目の名探偵』のリメイク版で、現時点では〈キッド・ピストルズ〉シリーズ唯一の長編。"猫"と名乗る殺人鬼によって、探偵たちが――マザー・グースの数え歌の見立てで――次々に殺害された。容疑者となった記憶喪失の"私"は、3人の探偵(探偵士)とともに捜査を進めていく。3つの推理を並置した構成がユニークな快心作だ。

次のページでも〈キッド・ピストルズ〉シリーズを御紹介します。