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キッド・ピストルズの"最低の"帰還(2ページ目)

山口雅也の生んだパンク刑事"キッド・ピストルズ"が13年ぶりの復活。そのユニークな作品世界を御案内します。

執筆者:福井 健太

パンク刑事の妄想と慢心

『キッド・ピストルズの妄想』
反重力に憑かれた物理学者、箱船を建造する聖書原理主義者、庭園に魅せられた伯爵。妄想に縛られた人々のロジックを解き明かす傑作短編集。
〈キッド・ピストルズ〉シリーズ第3作『キッド・ピストルズの妄想』は1993年に刊行された。収録作の「神なき塔」「ノアの最後の航海」「永劫の庭」はいずれも"妄想"――すなわち"狂った論理"をテーマにしたもので、キッドは関係者たちの妄念を辿ることで事件を解決するが、この手法は(本シリーズに限らず)多くの山口作品に見ることができる。ここに著者の発想法が凝縮されていることは明らかだろう。1995年に出版された『キッド・ピストルズの慢心』は「キッド・ピストルズの慢心」「靴の中の死体」「さらわれた幽霊」「執事の血」「ピンク・ベラドンナの改心」の5編を収めた1冊。表題作ではキッドが手掛けた初めての事件、最終話ではピンクの過去が綴られており――謎解きの密度では前2冊に及ばないものの――彼ら自身が書いた(という設定の)2編を通じて人物像を掘り下げているのは大きな見所と言えそうだ。

13年ぶりの最新刊がついに登場

『キッド・ピストルズの最低の帰還』
和弓の"返し矢"による不可能殺人、三兄弟による奇抜なアリバイ工作、一本道から消失したトラックの秘密――キッド・ピストルズの推理が冴えるシリーズ最新刊。
それから13年――ようやくキッド・ピストルズが帰ってきた。山口の最新刊『キッド・ピストルズの最低の帰還』は、2007年から2008年にかけて書かれた3編に、長らく単行本化されなかった旧作(1995年に書かれた2編)を加えたファン待望の1冊である。キッドの死亡シーンで幕を開ける「誰が駒鳥を殺そうが」は「シャーロック・ホームズの生還」の屈折したパロディにして、不可能犯罪を扱った正統派の謎解きモノ。「アリバイの泡」はキッドがアリバイ工作のミスを見抜く軽めのストーリーで、「教祖と七人の女房と七袋の中の猫」は路上から消えたトラックの秘密を暴く物語。さらにキッドは「鼠が耳をすます時」で異様な殺人方法を看破し、「超子供たちの安息日」では超能力者の施設で起きた難事件を解決していく。超人的な怪盗や超能力者を登場させながらも、フェアな謎解きに徹する姿勢は"異世界本格ミステリー"の第一人者・山口雅也の真骨頂。シリーズの復活を祝うとともに、今後の新たな展開を大いに期待したいところだ。

【関連サイト】
山口雅也(Wikipedia)…山口雅也の簡単なプロフィールと著作リストです。
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