ミステリー小説/ミステリー小説関連情報

古典新訳文庫で読むミステリー

現代的な翻訳で話題の「光文社古典新訳文庫」――そのラインナップからミステリーファン向けの作品を探してみましょう。

執筆者:福井 健太

古典新訳文庫のコンセプト

『黒猫/モルグ街の殺人』
"ミステリーの始祖"エドガー・アラン・ポーの作品集。これを読まずしてミステリーは語れない。
2006年9月に創刊された古典新訳文庫は、現代人に読みやすく古典を改訳する(「いま、息をしている言葉で、もういちど古典を」)という方針で作られている。ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』がベストセラーを記録したことは――多くのメディアで報じられたので――御存知の方も多いはずだ。現在までに56点が刊行されている本シリーズには、当然のごとく(広義の)ミステリーも含まれている。ここではそんな作品群を見ていくことにしよう。

最初に押さえるべきは、やはり"ミステリーの始祖"エドガー・アラン・ポーの『黒猫/モルグ街の殺人』だろう。怪奇小説の名作「黒猫」と"世界初のミステリー"こと「モルグ街の殺人」に加え、異様な心理を綴った「アモンティリャードの樽」「告げ口心臓」「邪鬼」、ドッペルゲンガーを題材にした「ウィリアム・ウィルソン」、恐怖小説の白眉「早すぎた埋葬」、猫に関するエッセイ「本能vs.理性――黒い猫について」などを収めた本書は、天才ポーの入門書として格好の1冊に違いない。分量的な物足りなさはあるものの、ポーの傑作を挙げるときりがない以上(「大鴉」「盗まれた手紙」「陥穽と振子」……)、完璧なセレクションを望むのは酷というものか。本書はあくまでも入口として、他の著作にも手を伸ばしていただきたいところだ。

次のページでは他の(広義の)ミステリー作品を御紹介します。
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