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石持浅海のシチュエーション・ミステリー

野心的な本格ミステリーで知られる石持浅海。最新刊『君の望む死に方』は"殺されようとする男"を主人公にした会心作です。

執筆者:福井 健太

本格ミステリー界の鬼才・石持浅海

『アイルランドの薔薇』
アイルランドの宿屋で武装勢力の副議長が殺され、観光に訪れていた日本人化学者が殺人犯を暴く。特異な舞台を生かした記念すべきデビュー作。
石持浅海は1966年愛媛県生まれ。1997年に「暗い箱のなかで」が公募アンソロジー『本格推理 11』に採用され、同シリーズの常連として活躍した後、2002年に"KAPPA-ONE"企画の第1期生として初長編『アイルランドの薔薇』を発表した。ユニークな設定と論理性の高さには定評があり、2005年刊の『扉は閉ざされたまま』は『このミステリーがすごい!』の第2位に選ばれている。今回はそんな著者に注目してみよう。

秀作揃いの連作短編集

石持は長編・短編ともに多くの傑作を生み出しているが、特定のパターンを踏まえた(シリーズとしての)謎解きと、少しのデータから意外な真相を取り出すテクニックが最大の武器に違いない。そのことは著書の約半数を占める連作短編集にも見て取れる。"対人地雷"というモチーフから多彩な謎解きを編み出した『顔のない敵』、日本古来の諺や風習を題材にした『人柱はミイラと出会う』、酒宴での謎解きが身内の恋愛に帰結する『Rのつく月には気をつけよう』などの単行本では、1つのパターンを繰り返すことで独自の世界が構築されている。これは第2長編『月の扉』の続編にあたる短編集『心臓と左手』、人間そっくりの知的生命体を探偵役に据えた『温かな手』などにも言えることだ。議論を軸にした"密室劇"を好む書き手だけに、概してアクションには乏しいけれど、そのぶん高密度の推理が詰まっているのである。

次のページでは2冊の"シチュエーション・ミステリー"を御紹介します。
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