名脚本家にして推理作家
辻真先のプロフィール
漫画原作者・石黒竜樹が殺害され、少女漫画家の山添みはるが逮捕された。さらに中学校で密室殺人が発生し、迷コンビが探偵役を買って出るのだが……。 |
そんな彼は1963年に「生意気な鏡の物語」(名義は桂真佐喜)でデビューし、1972年の初長編『仮題・中学殺人事件』でミステリーマニアの度肝を抜いた推理作家でもある。ちなみに本書と続編『盗作・高校殺人事件』『改訂・受験殺人事件』および短編「一件落着!」は、1990年に『合本・青春殺人事件』として1冊にまとめられた。1981年には『アリスの国の殺人』で第35回日本推理作家協会賞を受賞。雑種犬が探偵役を務める〈迷犬ルパン〉シリーズ、瓜生慎と三ツ江真由子が活躍するトラベルミステリーなど、100冊以上のミステリーを発表している精力的な書き手なのだ。
辻ミステリーの実験性
漫画雑誌の編集長が殺された。しかしストレスが溜まった部下の脳内では"不思議の国"の物語が展開され、チェシャ猫が密室で殺されていた。異色の構成が光る日本推理作家協会賞受賞作。 |
たとえば『アリスの国の殺人』では『不思議の国のアリス』の世界で起きた"チェシャ猫殺し"と現実の殺人事件が並行して描かれ、稀代の怪作『天使の殺人』では「このミステリの犯人は天使です。しかし探偵役もまた天使が務めます。一方、このミステリは「犯人捜し」の物語であると同時に、死者と探偵が誰なのか判らず、しかも「天使の殺人」の作者さえ判らない、という作品なのです」という大技が炸裂している。破天荒なアイデアと技巧を併せ持つ異才――それが辻真先なのだ。
次のページでは『完全恋愛』を御紹介します。