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ギルバート・アデアのしわざ(2ページ目)

実験的な小説で知られるギルバート・アデア。その作品世界を御案内しましょう。

執筆者:福井 健太

アガサ・クリスティーの変奏曲
『ロジャー・マーガトロイドのしわざ』

『ロジャー・マーガトロイドのしわざ』
吹雪に閉ざされた邸宅で密室殺人が発生した。大胆な"騙し"が仕掛けられたユニークかつ挑戦的な本格ミステリー。
アデアが2006年に発表した『ロジャー・マーガトロイドのしわざ』は、アガサ・クリスティーの名作『アクロイド殺し』へのオマージュとして書かれている。原題の"The Act of Roger Murgatroyd"が『アクロイド殺し』の原題"The Murder of Roger Ackroyd"のもじりであることは明らかだ。

若島正の解説によると、著者は「本書を執筆する前の二年ほどのあいだに、クリスティーの長篇全六十六冊をすべて通読あるいは再読したのだという。そして、自分がいわば六十七冊目のクリスティーばりの作品を書いてみる気になった」らしい。単なるオマージュに終わることなく――随所に古典ミステリーを想起させる小ネタを埋めながらも――メタフィクションの趣向をトリックに生かしている点は、いかにも曲者アデアらしいところである。

舞台は1935年の英国ダートムア。激しい吹雪に見舞われ、関係者たちがロジャー・フォークス大佐の屋敷に閉じ込められた。ゴシップ記者のレイモンド・ジェントリーが全員の秘密を知っていると仄めかした直後、レイモンドが密室状態の部屋で殺害され、被害者のポケットから奇妙なメモが発見される。現場に駆けつけた元スコットランドヤードのトラブショウが捜査を始めると、大佐は思いがけない告白を始めるのだった……。

吹雪に閉ざされた館、密室殺人、暗号めいたメモ、全員に動機がある状況――などの古典的なお約束を凝縮させた本書は、現代の英国ミステリーとしては極めて異色の存在と言えるだろう。あえて率直に書いてしまえば、メイントリックには日本人作家の前例が複数あるし、密室の謎解きは極めてチープなものだ。球種としてはチェンジアップなので、剛速球を期待すると肩すかしを食わされるかもしれない。

しかし本格ミステリーのパロディとしては楽しめるし、ポストモダニストによるクリスティーのアレンジとしても興味深い。先に『アクロイド殺し』を読んでおく必要があるし、いささかマニア向けであることは否めないが、ディープな読者には刺激的な1冊に成り得るはずだ。

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