ユーモラスな泥棒小説
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"ふるさと創生基金"で作られた黄金の地球儀を盗むため、一芸に秀でた変わり者たちがチームを組んだ。彼らの計画は成功するのだろうか? |
海堂尊は医学ミステリーだけではなく、ユーモラスな犯罪小説――
『夢見る黄金地球儀』のような作品も手掛けている。首都圏の端に位置する桜宮市(田口&白鳥シリーズの舞台と同じ)に舞い込んだ"ふるさと創生基金"の1億円は、黄金の地球儀に姿を変えて古い水族館に展示されていた。鉄工所に勤める"トラブル招聘体質"の平沼平介は、悪友・久光穣治の「久しぶり。ところでお前、1億円欲しくない?」という言葉に乗せられ、仲間を集めて地球儀を盗み出すことにした。計画は成功したかに見えたが、ある厄介な事実が判明し、平沼たちは別の計画に着手することになる。しかし――その奧にはさらに意外な事実が隠されていた。二転三転するストーリーは何処へ辿り着くのか? そもそもこの計画は何のために仕組まれたのか? ドナルド・E・ウェストレイクの〈ドートマンダー〉シリーズ、浅暮三文
『ラストホープ』などの傑作群にも通じる軽快なクライムコメディだ。
子供の視点から医学界を描く
誠意に満ちた野心作
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大学の医学部に所属することになった中学生の「僕」は、研究室で起きた大騒動に巻き込まれていく。学会の光と影を正面から描くハードなジュヴナイルだ。 |
著者の最新刊
『医学のたまご』は、医学専門誌〈日経メディカル〉に連載された異色のヤングアダルト小説である(初出誌の関係上、本文は横書きになっている)。平凡な中学生の「僕」こと曾根崎薫は、ゲーム理論の権威である父の作った"潜在能力試験"で高得点を取ってしまい、天才少年として医学部の研究室に加わることになった。「僕」は同級生の力を借りて研究を進める(=その場をごまかす)が、やがて姑息な陰謀に直面してしまう。若い読者をメインターゲットにした叢書〈ミステリーYA!〉の1冊だけに、主人公の飄々とした語りは平易なものだが、学界と学者のダークサイドは極めてシビアに描かれている。勧善懲悪では済まない"現実"を見据えた苦いエンディングは、著者の意識の高さと誠実さの反映にほかならない。この著者らしいストーリーテリング、軽快な文体、病理医としての主張などが詰めこまれた(著者の言葉を借りて言えば)「中高生向けに書きましたが」「大人も専門家も楽しめる」快作なのである。
【関連サイト】
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『チーム・バチスタの栄光』の海堂尊さん!…「All Aboutミステリー小説ガイド」で2年前に行ったインタビューです。
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「このミス」大賞受賞作家 海堂尊のホームページ…宝島社公式サイト内のページ。著者のインタビューなどが掲載されています。