どんな時代にも旬の作家はいるものだ。力量のある作家が業界に認知され、機会を生かして傑作を発表し、多くの読者を獲得していく――その過程をリアルタイムで追うことは、本好きにとって大きな喜びに違いない。次々に話題作を上梓している桜庭一樹は、そんな「旬の作家」の代表選手。その質量ともに充実した仕事ぶりを見てみよう。
桜庭一樹のプロフィール
桜庭一樹は1971年鳥取県生まれ。大学在学中の1993年にDENiMライター新人賞を獲得した後、山田桜丸名義でゲームのシナリオとノベライズを書くようになり、1999年には『夜空に、満天の星』(刊行時に『ロンリネス・ガーティアン』と改題)で第1回ファミ通エンタテインメント大賞(小説部門)に佳作入選。これは桜庭一樹名義の最初の小説となった。〈GOSICK〉シリーズでライトノベル読者の人気を博し、一般向けレーベルでも
『少女には向かない職業』で注目を浴び、2007年には
『赤朽葉家の伝説』で第60回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞。同作は第27回吉川英治文学新人賞と第137回直木賞の候補にも選ばれている。
ライトノベル作家としての桜庭一樹
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自分は人魚だと主張する海野藻屑――その背後には残酷な真実が隠されていた。衝撃的な結末が強い印象を残すダークな青春小説だ。 |
そんな略歴からも解るように、著者の初期作品(の大多数)はライトノベルとして刊行されている。その分野での代表作〈GOSICK〉シリーズは、第一次世界大戦後のヨーロッパを舞台にした物語。ソヴュール王国の寄宿学校・聖マルグリット学園に留学した久城一弥が、同級生の天才美少女・ヴィクトリカとともに難事件に挑む――という安楽椅子探偵モノである。ちなみに単独作品を読みたい人には
『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』が絶対のお勧め。鳥取県に住む中学生・山田なぎさの学校に転入してきたのは、往年の人気歌手である海野雅愛の娘・藻屑だった。自分は人魚だと語る藻屑に興味を惹かれたなぎさは、やがて彼女の境遇の異様さに気付いていく。本作に綴られた地方都市の閉塞感と子供の無力感は――結末のインパクトによって――読者の心に深く刻まれるはずだ。ライトノベルに偏見がある人でも、本書を読めば認識が覆されるに違いない。
次のページでも桜庭作品を御紹介します。