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米澤穂信にインシテミル(2ページ目)

青春ミステリの名手・米澤穂信は硬派の本格ミステリ作家でもあります。その全著書を概観してみましょう。

執筆者:福井 健太

奇抜な発想が盛り込まれた
ノンシリーズ作品

『ボトルネック』
崖から転落した嵯峨野リョウは「自分が生まれなかった可能世界」に飛ばされてしまう。彼がそこで直面した絶望的な真相とは……。
米澤穂信は――シリーズものの安心感とは対照的に――単独作品では先鋭的な試みをすることが多い。たとえば初のノンシリーズ作品『さよなら妖精』では、著者は青春ミステリーと世界の現実を重ねてみせた。大学生の守屋路行は1年前に出逢った黒髪の白人マーヤ(と過ごした2か月間)を回想し、彼女の帰った故郷の正体を知ることになる。『犬はどこだ』はペット探しを生業とする青年・紺屋長一郎が主人公の私立探偵ものだが、こちらは遠からずシリーズ化される予定。さらに著者は『ボトルネック』において広義のSFにも挑戦している。高校生の「僕」こと嵯峨野リョウは、恋人を弔うために訪れた東尋坊の崖から墜落し、気が付くと金沢の町に立っていた。存在しないはずの姉・サキの話を聞いた「僕」は、自分が生まれなかったパラレルワールドに飛ばされたことを悟る。真相の絶望感はあまりにも印象的だが、著者のダークサイドが発揮された野心作であることは確かだろう。

本格ミステリーの遊戯性に淫した
最新長編『インシテミル』

『インシテミル』
高給に釣られて館を訪れた被験者たちは、主催者の思惑通りに殺人ゲームに巻き込まれていく。ゲームの勝者は果たして誰なのか?
最新刊『インシテミル』もダークサイドを感じさせる物語だ。時給11万2000円の実験モニターとして「暗鬼館」に集められた12人の被験者たちは、館の地下に7日間閉じ込められることになった。主催者による悪趣味なルールに導かれるように、彼らは殺人ゲームを繰り広げていく。各人に配られた道具で殺されていく被験者たち。嘘をついているのは誰か? そして生き残るのは誰か? 人間をゲームの駒と見なす非人道的な発想は、いわば本格ミステリーの王道にほかならない。その非人道性を強調し、人々の行動を無機的な数字のゲームに還元すること――著者はその手続きに「淫してみる」ことを選んだ。巻頭の「この先では、不穏当かつ非倫理的な出来事が発生し得ます。それでも良いという方のみ、この先にお進みください」という警告文に誇張はなく、だからこそ本作は本格ミステリーならではの刺激を持ち得ているのだ。

【関連サイト】
汎夢殿…米澤穂信公式サイト。近況報告と著者自身による既刊情報などがあります。
作家の読書道WEB本の雑誌に掲載された米澤穂信インタビューです。
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