中年青春ハードボイルド
〈柚木草平シリーズ〉の独自性
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私立探偵・柚木草平のもとに舞い込んだのは、女子大生轢き逃げ事件の再調査だった。美女に囲まれた惚れっぽい探偵の活躍を描くシリーズ第1弾。 |
樋口有介には30冊以上の著書があり、その約2割を〈柚木草平シリーズ〉が占めている。1990年に
『彼女はたぶん魔法を使う』で初登場した柚木は、38歳のフリーライター兼私立探偵。高校生の時に暴力団事件で両親を失ったことから警官を志し、警視庁捜査一課の刑事として活躍するが、捜査中にヤクザを射殺したために退職。妻と娘とは別居中で、元上司との不倫を続けている――という人物だ。このシリーズの最大の特徴は、
不倫中年を主役にした青春小説であることだろう。現代の事件と過去を重ねることで、著者はユニークな
中年青春ハードボイルドを創造したのである。
2007年8月現在、このシリーズは
『彼女はたぶん魔法を使う』『初恋よ、さよならのキスをしよう』『探偵は今夜も憂鬱』『誰もわたしを愛さない』『刺青白書』『夢の終わりとそのつづき』の6冊が刊行されている。まもなく最新作が上梓されるほか、雑誌『ミステリーズ!』では『捨て猫という名前の猫』が連載中。柚木の活躍はこれからも続きそうだ。
ハードボイルドのパロディと
直球派の青春小説
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平凡な田舎町で起きた連続バラバラ殺人。多くの断片から浮上する「ピース」とは? 著者が新境地を拓いた日本推理作家協会賞候補作。 |
改めて説明するまでもないが、樋口作品は〈柚木草平シリーズ〉だけではない。変わり者の元警官・木野塚佐平が登場するハードボイルドのパロディ
『木野塚探偵事務所だ』と
『木野塚佐平の挑戦』もあれば、ミステリー色を排した
『夏の口紅』『楽園』などの青春小説もある。ハードボイルドと青春小説を得意とする著者は、両者の配合によって作風に彩りを加えてきたが、最新作
『ピース』では――叙情性を薄めた筆致で――田舎町を舞台にした連続バラバラ殺人の顛末を綴ってみせた。著者の扱い得るテーマのバリエーションと力量はまだまだ底が知れないのである。
【関連サイト】
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ぼくと、ぼくらの春夏秋冬…樋口有介の情報サイト。作家プロフィールや作品一覧などがあります。