女友達の絆を描いた長編【no.1】北村 薫『ひとがた流し』
年齢を重ねるほど、友達って大事だなあと思います |
物語の主な登場人物は、アナウンサーの千波と作家の牧子、元編集者の美々。3人は高校時代から40代になった今でも、お互いの娘(牧子の娘・さき、美々の娘・玲)も交えて往き来する関係です。そのうちのひとり、千波の病が、朝のニュース番組のメインキャスターに抜擢された矢先に発覚します。
そう、本書は号泣本では定番中の定番、不治の病モノです。でも、著者は物語を盛り上げるために登場人物を重い病気にするような無神経なことはしません。たとえば千波の態度で病院で何か言われたと悟ったときの牧子の対応など、デリケートな問題を丁寧に描いていることがよくわかります。とにかくひとつひとつの何気ないエピソードが印象に残る作品です。
ガイドが好きなのは鯖の味噌煮の話。ある秘密を知ってショックを受け、家を突然訪れた玲に、千波は鯖の味噌煮をふるまいます。牧子に聞いたという鯖の味噌煮にまつわるエピソードを玲に話した後、千波はこんなことを言うのです。
そういう記憶のかけらみたいなものを共有するのが、要するに、共に生きたってことだよね。
ドラマティックな事件ではない。鯖の味噌煮を見ると一緒に食べた人のことを思い出すような、日々のささやかな出来事が想いを伝えてゆく。深い感動とともに、毎日を大切にしようという真摯な気持ちがわきあがってきます。
<ほかにも“泣ける小説特集”書いてます>
“泣ける小説”は読者に人気があるそうで、リクエストも多いんです。ほかにもこんな記事を書いています。「まだまだ泣きたりない」という方は、よろしければご一読ください!
・休日泣いてもいいですか?落涙小説ガイド
・雨と涙で心も洗われる?切ないミステリー
・この秋、映画と原作で泣く!