悪意を描くことで善意が見えてくる
作品のイメージに反して、真梨さんはとても明るくほがらかな人。 |
真梨さん:私はどちらかというと人間の善意の部分を信じていますが、誰でも悪意や闇は持っているし、そこを表現したいですね。人間が2人もいればどうしたってドロドロする。それが人間関係でしょう。でも蓮のように泥の中にこそ咲く花があるんですよね。そういう人間関係を表現することによって、ちょっとした善意が見えてくれば理想的かな。
ガイド:本書はドロドロをオブラートに包まず、とことん描いている感じですね。特にある登場人物が最後に見せる本性に衝撃を受けました。
真梨さん:当初はもっと穏やかで明るいラストにしていたんですけど、「こんなヌルくていいのかな?」と思ったんですね。その登場人物を泥をかぶって前進するようなダークなキャラクターにしないと落ち着かないような気がしたんです。きれいごとでは生きていけないのが世の中だから。私は実は潔癖症で、ちょっと泥がはねたのも気になってしまうんです。でも雨の日にそんなの気にしていたら、一歩も進めないじゃないですか。私自身の教訓でもあるんですけど、潔癖症では生きていけないというのを表現したいなと。
悪役に感情移入してしまう
人造人間として生を受けたがための深い哀しみが描かれている名作! |
真梨さん:意識的な悪人って好きなんです。一番嫌いなのは、自分が悪いことをしていると思わないで、むしろ良いことをしていると思っている無自覚な人。そういう人に泥を引っ掛けられて「悪気はなかったんです~」と言われたら怒れない。でも悪意があって泥を引っ掛けられたら、責められるじゃないですか(笑)。だから私は昔から、悪役って大好きなんですよ。
ガイド:たとえばどんな悪役がお好きですか?
真梨さん:「人造人間キカイダー」のキカイダーとか。キカイダーは本来悪役ではないのですけれど、正義の味方なのに悪の心を持っているところが好きなんです。それから、実は怪獣のほうが被害者だったみたいな脚本がある「ウルトラセブン」も子ども心にびっくりしました。「海のトリトン」もそういう話ですね。小さい頃から「ほんとうに正義なの?」という問いかけのある作品をよく見ていたような気がします。悪役に感情移入するようになったのは、その影響もあるかもしれません。いま、「チャングムの誓い」もハマって見ているんですけど、前向きなチャングムより、敵役のチェ一族に肩入れしています(笑)。別に犯罪などの悪事を肯定しているわけではなくて、人間が生きていくには誰かに迷惑をかけるものなんだと思うんです。生きているだけで知らず知らずのうちに、悪いことをしてしまうこともある。だからそれを自覚することで、はじめて見えてくる善意もあるのかなと。
ガイド:そういうことをふまえて、『女ともだち』を読むと、また印象が変わるかもしれませんね。今後はどんな作品をお書きになる予定ですか?
真梨さん:読者の方に感動していただいたり、喜んでいただける作品を……と言えるといいんですけど、なかなか。というのも、私自身がまだ自分が何に感動するのかわかっていないので、そういうことを言うのは傲慢な気がするんです。ですから、その時どきで最良の作品を書けたらいいなと思っています。
ガイド:これからもどんどん進化していきそうですね。楽しみです!