窓際の女性と裏切りの雨宮部みゆき『地下街の雨』
表題作は恋人に裏切られ深く傷ついた女性の再生の物語。最後に収録された「さよなら、キリハラさん」もじわーっと沁みるいい話。 |
ずっと地下街にいると、雨が降りだしても、ずっと降っていても、全然気がつかないでしょ? それが、ある時、なんの気なしに隣の人を見てみると、濡れた傘を持ってる。ああ、雨なんだなって、その時初めてわかるの。それまでは、地上はいいお天気に決まってるって、思い込んでる。あたしの頭の上に雨が降っているわけがない、なんてね。(中略)裏切られたときの気分と、よく似てるわ…P23
「窓際の女性」は麻子にそんなことを言います。お互いの心の傷に共感したのも束の間、麻子の元同僚・淳史が目の前にあらわれたことで、「窓際の女性」の言動は常軌を逸したものになっていくのです。淳史に執着して追いかけまわし、麻子に対する敵意をむき出しにする「窓際の女性」。なぜ、そんなことをするのか。彼女の過去を知って恐怖をおぼえた麻子は、淳史を助けようとしますが……。
信頼していた人に裏切られたとき、ツイてないとき、悲しいけれど、きっとまたいいこともあると思える。そんな温かいラストになっています。
雨男の死神が見つめる生と死伊坂幸太郎『死神の精度』
雨男で音楽好きの死神が仕事でかかわった人間たちの物語。 |
死神の名前は千葉。彼の仕事は、突発的な事故や思いもよらない事故で亡くなる予定の人々を調査し、その死が妥当であれば「可」、まだ死ぬべきではないと判断すれば「見送り」の報告をすること。仕事の合間にCDショップの視聴機で大好きな音楽を聴くことを楽しみにしながら、彼は自分が死ぬことを知らない人に接触しいろんな話をします。
千葉は調査対象によって姿を変えることができますが、死神の本性がときどきのぞいてしまうあたりが面白い。たとえば表題作で調査するのは、企業のクレーム担当をしている地味な女の子。自分の容姿にコンプレックスがある彼女が「わたし、醜いんです」と言うと、千葉は「みにくい?(中略)いや、見やすい」と答えるといった具合。感覚がズレているので、会話がかみあわないのです。
死神である千葉は、人間の生死に興味はない。でも、その率直な言葉が、なぜか孤独な人々の心に届く。収録された6編はどれも印象に残る好短篇なのですが、ある短篇が別の短篇と思わぬところでリンクしていて、最初から順番に読んでいくと最後の「死神対老女」で大きな感動が得られます。
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