小林泰三(こばやし・やすみ)。1962年京都府生まれ。1995年『玩具修理者』で第2回日本ホラー小説大賞短篇賞を受賞。 |
待望の最新刊『脳髄工場』も、1つのジャンルにくくれない短篇集。SFあり、ホラーあり、ミステリーあり、恋愛ありのバラエティに富んだ作品が収録されています。ロジカルでグロテスクでユーモラス。小林さんらしいセンス・オブ・ワンダーに満ちた作品集『脳髄工場』について、お話をうかがいました。
『脳髄工場』内容紹介
表題作ほか、一風変わったドッペルゲンガーを描く「友達」、クトゥルフ神話もの「C市」、SFミステリー「アルデバランから来た男」などバラエティに富んだ11篇を収録。 |
表題作「脳髄工場」の舞台は、犯罪抑止のため脳内の環境を整える“人工脳髄”が普及した社会。大根みたいな形で七色に光る歯車がついている“人工脳髄”を、脳髄師と呼ばれる国家資格を持つ者(理髪師と兼業)が頭に突き刺して(!)装着するという設定です。
主人公の少年は、みんなが当たり前に“人工脳髄”をつけているなか、なんとなく装着を先延ばしにしていました。中学生になっても“天然脳髄”でいるうちに、少年は疑問を抱きます。“人工脳髄”をつけて自分の感情をコントロールできるようになったら、自分の人格は装着以前と同じといえるのか? 機械に感情を制御され、自由意志はなくなるのではないか? 悩んだ末に少年が下した決断と、その後に待ち受ける運命とは……。
アメリカで試みられている犯罪者の矯正法が発想のきっかけ
ガイド:バラエティに富んだ作品群ですが、今回単行本化するにあたって、トータルのコンセプトはあったのでしょうか?小林さん:今回の作品の選択については、編集者さんにお任せしました。どちらかと言うと、SF色の強いものが集まったように思います。
ガイド:表題作の“人工脳髄”のアイデアは、どのようにして考えられたのでしょうか?
小林さん:アメリカでは、性犯罪者の矯正のために電気ショックを使った条件付けが試みられています。これを突き詰めれば、犯罪者の脳を矯正すれば、すべての犯罪が起こらなくなることになりますが、同時に何が正しい矯正であるかを誰が判断するのかという問題も出てきます。こういった疑問が執筆のきっかけです。
ガイド:周囲の人と違ってしまうことを恐れ、強制されたわけでもないのに誰もがすすんで“人工脳髄”をつけていくという展開が怖いです。主人公の少年は抵抗しますが、もし小林さんが少年だったら“人工脳髄”をつけますか?
小林さん:どうでしょうかね。結構流されてしまう性格なので、付けてしまうかもしれませんね。
登場人物たちが勝手に議論を始めてしまうんです
「タイタンの戦い」は、ギリシャ神話をもとにペルセウスの冒険と恋を描いた大作。 |
小林さん:書いているうちに登場人物たちが勝手に議論を始めてしまうことが殆どです。作者としては、中立の立場ですが(笑)
ガイド:「脳髄工場」は脇役もユニークですね。工場にいる二人の老婆、プログラマとデバッガのキャラクターが印象的です。モデルはいないと思いますが、着想のヒントになったものはありますか?
小林さん:映画「タイタンの戦い」に盲目の三人の魔女が出てくるのですが、それに近いイメージです。
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