アルバム総評
先生:
では、一通り新曲・新ヴァージョンに関する意見交換は出来ましたので、このあたりでまとめに入りましょう。ちなみに、オリコン・アルバム・チャートでは、フラゲの日は断トツの1位。ウィークリーも1位!初動売り上げは『GAME』を超えているようです。アルバムのCMもGRPが増えているような気がします。売れればいいアルバムという訳ではありませんが。セールス的には十分成功と言えるでしょう。
博士:
もしかしてテクノ・リヴァイヴァル=80年代再来はもう遅いのか?と疑ってしまいました。何となく香る90年代初頭のサウンドにシフトしてきています。小室サウンドのほんの少し前、角松敏生あたりがプロデュースしていた頃のサウンドのほのかな匂い。逆に言うとかつて80年代テクノがそうであったように今、最もキテいないサウンドです。中田プロデューサーが単に古いのか・・・もしかして最も早いのか。
先生:
『GAME』というアルバムがある意味、アイドルのアルバムとしては売れつつも、音楽的に評価されましたから、このアルバムに対しての期待値は最初からかなり高かったんだと思います。「Pefumeって思いの外、凄い」から「Perfumeは凄くて当然」という見方に変わりつつありますからね。
研究生:
僕が王道ハウスやディープハウスっぽく感じた路線が、中田プロデューサーなりのこだわりなのか、単なるネタ切れなのかは気になるところですね。博士がおっしゃる意味合いとは異なりますが、“現在、キテいないサウンド”ではあるかなと。ハウス路線の曲もメロディーが良いので大好きなのですが、刺激的な音が欲しい気持ちからすれば、複雑な感情もすこし抱いてしまいますねー。
助手:
アーリー90’sというのは、これから一番注目されてくる要素であることは確かですよね。その点で「I still love U」や「NIGHT FLIGHT」といった楽曲は、今一番刺激的な音のように聞こえたんだけどなあ。最先端じゃないのかな?
もし刺激的な音というのが、仮に具体的なサウンドの話ではなく、アルバムのスタンスということならそれは納得ができます。さっきも少し言いましたが、『GAME』の盛りだくさんな感じは、今回ないですよね。『GAME』が肉食アルバムなら、今回のは草食アルバムですよ。それこそ冒頭の話にもあったように“一旦完成したプログラムの一部を修正すること”という言葉のとおり、大きく派手な修正ではなく、わずかな一部分の修正。それは一見地味かもしれませんが、確実に洗練、ブラッシュアップされていきます。それが今回のアルバムなんじゃないでしょうか。
先生:
なんだか、90年代回帰論が強いですね。割と90年代を素通りしてしまった僕としては、あまり時代的な音の気分というは強く感じませんでしたね。確かに意識して聴くと、そうかなぁ~というレベルはあるんですけど。最先端の刺激的なエレクトロをやるというのも選択肢としてはあるのですが、それはcapsuleでやればいい事だし。っていうか、最先端ということは、時間がちょっと経てば風化してしまうという矛盾にぶち当たりますから、Perfumeという個性がちゃんと生かされているかという点で見れば、このアルバムは「◎」だと感じます。
研究生:
正直、最初は“なんかかったるいアルバムやなぁ・・・”と感じていたんですよ。ところが、朝起きて歯磨きしながらなんとなく聴いている時にいきなりハマりました。で、僕の友人には「車に乗りながら聴くと、なんか気持ちいいよ」という人もいました。つまり、日常的なシチュエーションにすんなりと寄り添ってくれるポップス・アルバムが本作、と捉え直して以降は、聴いていてもすごく楽しいです。もちろん、フロア物ファンとポップスファンとの狭間で揺れ動く心情は未だありますが、これもポジティブなことだと捉えています。広がりを持つ良い音楽って、音楽ファンをアンビバレント(=両義的)な状態で葛藤させるものだと思いますしね。
先生:
最後に偉そうに締めくくりましょう。今回の対談をしていても、一つ感じるのは、第一印象の発言と聴きこんだ後の発言にギャップがあるという点。最初はいまいち分からなかったけど、何回も聴いているうちにいいじゃん!・・・これって、「Baby cruising Love」あたりから結構聞く発言なんですよね。僕的には何度も聴くに堪えるアルバムとしては、「GOOD JOB!」だと思います。研究生が指摘していましたが、『GAME』の“刺激”から『トライアングル』の“洗練”というのは、全体をアルバムのテイストを捉えるにはいい表現ではないかと思います。同時に、「I still love U」に見られるようにアイドルソング的要素を、このタイミングでギリギリのレベルで取り込んでいるところも多いに評価したいです。次は、直角二等辺三角形TOUR・・・どんなライヴになるか見守っていきたいと思います。