テクノポップ/アーティストインタヴュー

坂本先生にインタヴュー(2ページ目)

SL@yRe&The Feminine Stoolξのメンバーの一人、神経内科医でもある坂本昌己さんのソロアルバム『ENDOTONES』が8月8日にリリース。アトム・ハート、レイハラカミ氏なども参加!

四方 宏明

執筆者:四方 宏明

テクノポップガイド

アトム氏から学んだ仁義

ガイド:
Yellow Fever
セニョール・ココナッツとしてすばらしいYMOのラテンカヴァー・アルバム『Yellow Fever』を披露した、アトム・ハートさんと「Body Fluid v.1 feat. ATOM TM」「Naughty Rollin' v.1 feat. ATOM TM」の2曲をコラボされましたが、アトムさんとはどのようなきっかけでコラボをされたのでしょうか? 確か、教授が『Yellow Fever』を聴いて、「アトム・ハートさんは耳がいい」と賞賛されていたのを記憶しますが、コラボをされていて、アトム・ハートさんから得たものは?

坂本:
いきなり話は脱線しますが、アトムさんが今度のタイトルは『Yellow Fever』だって言うから、「黄熱病」とかけてるんですね、さすが!みたいなメールを送ったんです。日本では黄熱病の研究で野口英世という人物が偉人として扱われてるんだよ、みたいな話になって。
 
話を戻しますが「耳」の話ですね。音楽家はみんな耳がいいと思います。いわゆる聴音の能力が高いという話じゃなくて、総合的な音感と言うか。音の入り口の「耳」もいいでしょうし、それ以上に大脳の聴覚野に至るまでの高次機能としての「耳」がいいのでしょう。当然音感以外の感性も「耳の良さ」に関係していると思います。以前、ハラカミさんに「ハラカミさんって半端じゃなく耳いいですよねー」って言ったら「むかつく」って言われたことありますけど。 「耳」といってもいろんな意味がありますからね。話がズレてますかね?
 
それでアトムさんとの交流のきっかけは、彼がSL@yReのファーストアルバムを気に入ってくれたのが始まりです。メールが彼から来た時はビックリしましたよ。それで最初はメル友みたいな感じだったんですが、メールのやりとりの中で、ファイル交換で一緒にやってみない?って振ってみたら「いいよー」って返事が返って来て、あっさりコラボが始まったわけです。
 
彼が送ってくれたファイルを聞いてみて思ったことですが、確かに彼は耳がいいです。アトムさん曰く「just by my ear!」だそうです。彼の作るメロディー、ハーモニー、ベースライン、全部変わってます。ひとつずつ音の成り立ちを検証するとおかしなことになっています。縦のラインでどんなコードが鳴っているか見てみると、全くコードネームが付けられません。ままよくあることですけど。さらに横のラインで見ても、メジャーの響きの後にマイナーコードに変化したように聞こえるところでも、丁寧になぞってみるとただのセブンスだったり、明らかにダマし打ちを狙っているのがわかります。だから、ダマし打ちされたところで、さらにダマし打ち返すところがこっちにもないと面白くなくなっちゃいますよね。僕個人の趣向として、じっくり検証してみると意味不明だけど、やっぱりどうにも魅力的な音に対して、もうちょっと説明的な音を付加してみたり、その構造を強調したり、あるいは逆にぼかしたりすることは、いつもトライしてみようとしていることのひとつです。
 
彼の作るリズムはタイムフィールが独特なんです。アトムさん曰く「not on the grid!」だそうです。彼のライブを見て思ったことですが、そのリズム感が類い稀なものであることは、彼の体の動きを見ているだけでもわかります。それから彼の独特のエディット感は、アトムさん曰く、「decipline!」だそうです。なんてこった、、、、。

それから、以前、僕のミックスと彼のミックスがどう違っているか、彼がどういう音楽から何を聞き取ってどう自分のアイディアとしてミックスに反映させているか、ものすごく長いメールをくれたことがありました。これはかなり勉強になりましたが、ちょっと言えません。もったいぶってる訳ではなくて、バラしたらアトムさんに申し訳ないので。大体彼と話していると音楽の話もかなりオタクっぽくなってくるので、「かなりオタクっぽいよね?」って言ったら、アトムさん「not Otaku!!!!」だそうです。結構怒っていらっしゃいました。
 
でも、彼から得たもっとも重要なものは「仁義」です。冗談みたいに聞こえるでしょうけど、でも本当です。彼は人間がとても良くて、礼儀正しく、真面目です。音楽に対しても、人に対しても。こういうのってあんまり持ち上げると嘘っぽくなるのでなるべく言わないようにしていますが。

ガイド:
チリ在住のアトム・ハートさんとは1曲仕上げるまで何度くらいファイル交換を繰り返したのですか?

坂本:
今回は、1曲あたり20-30回です。どちらの曲も「v.1」と付いているのは、いずれも現在またアトムさんにファイルが渡っていて、今後も曲が変化していこうとしている途中の段階だからです。アトムさんはこの「v.1」にこだわっている様子でした。

ガイド:
アシトン降臨~心の中でダンスしてね!
アトム・ハートさんと共作でアルバムを出す構想もあるとか。かなり具体的な状況なのでしょうか? スーテック・コレクティヴ名義でレゲトン+アシッド合体させたアシトンというユーモアたっぷりの作品も作っているアトム・ハートさんですから、今から楽しみです。

坂本:
どうもありがとうございます。アルバムを出す話はその通りで、そのつもりでやってます。当初、ファイルをちょっとやり取りした段階で、彼から「あるコンセプトが思い浮かんだから、それを元にふたりでアルバムを1枚出そう」という内容のメールが来まして。(そのコンセプト云々のメールもかなりの長文でした)だから今後出そうと思っているアルバムに収録予定の曲を今回収録したことになっています。ただ今回のバージョンは、アトムさんが「君のアルバムにフィットする形に作り変えていいよ」とありがたい言葉を下さったので、今回は僕の思う通りに仕上げています。
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