参考物件として、『森へ帰ろう』を提供した山口美央子のシングル『恋は春感』(1983年)を掲載します。両面とも彼女の作詞・作曲で、A面の編曲は後藤次利、B面(『月姫』)の編曲は土屋昌巳。化粧品のテーマソングにも使われて小ヒットしたはずです。シンセの歌姫とも呼ばれていただけあって、声質は違いますが矢野顕子に通じるオリエンタル風テクノポップ・サウンドです。ベスト盤CD化希望。
同年につみきみほのイメージと完全同期化するシングル『少年』(1987年)をリリース。ちょっと目つきが鋭いつみきみほ。イントロを聴くだけで、期待感がこみ上げるタイプの曲です。この辺から、歌唱力のハンデを乗り越えながら、侮れなくなってきます。森本抄夜子のつみきみほのために書いたとしか思えない詞と八田雅弘=清水信之の作曲=編曲は、見事に彼女のキャラにはまっています。というか、歌うべき人は彼女しかいない。特に清水信之って仕事人だなと思わせる名曲です。
1988年のシングル『時代よ変われ』は、両面とも松本隆=細野晴臣=清水信之という超豪華な作詞=作曲=編曲陣によるもの。大人になりきれない危ない17歳がテーマの松本隆の詞は、とても意味深で言葉に突き刺すような毒があります。バグパイプで演奏されるマーチから始まるメロディアスな展開の曲は、さすがと言いたくなる。B面の『サヨナラのあくる日』も同じチームが提供。
そして、同年に彼女の唯一のアルバムとなった『つみきみほ』では、それまでにリリースされた3枚のシングル両面曲に4曲を追加。『森へ帰ろう』は、アルバム・ヴァージョンとなっています。特筆すべきは、5曲目の『楽園』。ニューウェイヴ時代の名残を感じさせるスカ歌謡。意味不明の笑い声もよし。アイドルによるスカと言うのは、プッチモニの『ちょこっとLOVE』ぐらいしか歌謡史上ヒットしていませんが、これは見逃せない実験曲です。
歌手つみきみほの4枚目かつ最後のシングルとなった『君はララバイ』(1989年)。決して悪い曲ではないのですが、ちょっと後退した感じがします。
もう歌わないんですかね、つみきみほ。侮れないシリーズ、次は牧瀬里穂。
【関連リンク】
◆『侮れない深津絵里』
◆『侮れない深田恭子』
◆『戸川京子さんが残した作品』
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