「ジャズ黄金時代」にひたれるベスト5
60年代の名曲ジャズ
60年代のジャズ喫茶で聴かれていたジャズのうち、今でもCDが売れ続けているのはマイルス、エヴァンス、あるいはアート・ブレイキーといったビッグネームが中心。しかし、その時代に聴かれていたジャズは、ジャズという音楽に歴史上もっとも人材と注目が集まったいわば「黄金時代」であり、それらのビッグネームを除いても、まだまだすばらしい作品がたくさん残されています。
今回の記事では、60年代のジャズ喫茶を彷彿とさせるアルバムをランキングしてみました。格付けの基準はただひとつ、「ジャズ黄金時代にひたれるアルバム」です。広義の名盤はもちろん含まれていますが、前述のようなビッグネームはあえて選考から外し、当時を知る人から「ああ、あれはよくかかっていたなあ」と思っていただけそうなものをセレクトしてみました。
哀愁ただようギターの調べ
■第5位:グラント・グリーン「アイドル・モーメント」ただ、グリーンは、かの「ブルーノートレーベル」の創始者、アルフレッド・ライオンにもっとも愛されたギタリストであり、そのプレイは、今聴きなおしてみると独特の魅力にあふれています。
決して速いフレーズを弾くわけでもなく、変わった音使いをするわけでもない。ビバップを踏まえながらも、ブルージーなフレーズを中心とした、シンプルで耳になじみやすいアドリヴを展開したグリーンには、コアなファンが今でも多くおり、プロのギタリストにもファンが少なからずいます。
「時代を代表する1枚」を選ぶとき、ギタージャズが選ばれることはあまりありません。でも、この1枚がかもしだす雰囲気は、間違いなく「ジャズがもっとも元気だった時代」の楽しさにあふれている、と私は思います。ガイドがギタリストという理由もないわけではありませんが(笑)、自信をもってお勧めできる一枚です。
歌心あふれる楽曲とアドリヴ
■第4位:デューク・ピアソン「スイート・ハニー・ビー」「ジャズピアニストといえば」という質問をしたとき、この人の名前が挙がってくる順位は非常に低いと思うのですが、彼は別にマイナーな存在であったわけではありません。若い頃にジャズ喫茶に通っていた方であれば、彼の演奏を聴いたことがない、という人は少ないはず。当時のジャズファンの間でも、十分に高い評化を得ていたピアニストなのです。
にもかかわらず、近年、あまり取り上げられなくなったのはなぜなんでしょうか。モンク、エヴァンスほどのビッグネームに肩を並べることはなくても、たとえばトミー・フラナガン、エディ・ヒギンズ、ウイントン・ケリーらといったピアニストに負けない評価と人気があっても不思議じゃない、味わいのあるピアニストだと私は思います。
デューク・ピアソンは、ブルーノートレーベル所属ミュージシャンの中でも、作編曲力を高く評価されたピアニストでした。そんな彼のアドリヴは歌心にあふれ、またバンドサウンドも安心して楽しめる、洗練されたものです。
また、5位、4位ともサックスで登場するジョー・ヘンダーソンのプレイも、安心感という意味ではピカイチ。ジャズらしいジャズを楽しめます。
「ジャズ=楽しきもの」の真骨頂
■第3位:オスカー・ピーターソン「ナイトトレイン」後者のタイプの代表選手が、古くはサッチモ(ルイ・アームストロング)であり、60年代以降ではこのオスカー・ピーターソンであった、といえるでしょう。たとえば同じ時代、ジョン・コルトレーンは録音アルバムでも10分、15分といった長さのソロを吹きまくっていたのに対し、ピーターソンの演奏は2分半が標準。長くても1曲が5分を超えるということはほとんどありませんでした。
選曲も、お客さんが聴きたいと思うならば、という精神がかいまみえる、大衆性に満ちたセレクションです。
本作は、そういうジャズ・エンターテナーであるピーターソンのアルバムのなかでも、芸術性と大衆性が見事に同居しているという意味で、名作中の名作といっていいものです。
「ジャズは楽しいものなんだよ」という、天国にいる彼の穏和な笑顔を思い浮かべながら、聴いていただきたいアルバムです。
「ジャズ=楽しきもの」の真骨頂
■第2位:デクスター・ゴードン「アワ・マン・イン・パリス」デクスター・ゴードンのプレイは、レスター・ヤング、チャーリー・パーカーといったビバップの先人のメソッドを正確に引き継ぎつつも、ハードバップというスタイルが持っていたある種の「定型性」を厭わない、大衆性のあるものでした。
特に、彼の得意技であった、有名曲のフレーズを他の曲の意外なところで引用して見せるテクニックは、ときに「受け狙い」と揶揄されることもありましたが、すばらしい「アート」であったと私は思います。
本作でも、「Stairway to the Stars」「Night in Tunisia」といった名曲で、これでもかというようなデックス節を聴かせてくれています。非常に聴き所のある名作といえるでしょう。
さて、ゴードンといえば、映画『ラウンド・ミッドナイト』の主演を演じ、アカデミー賞候補にも挙がったことで有名。もし興味がわいた方がいらっしゃれば、レンタルビデオ店で探してみてください。大きなお店であれば、必ずといっていいほど、音楽映画の一隅に鎮座する、名作です。
追記:ほんとは、第2位にはデクスター・ゴードンの名作2枚組、「モンマルトル・コレクション」という名盤をご紹介する予定でした。が、現在どうも廃盤中のようで、ネットオークションでは1万円を超える高値がついておりました。中古レコード屋さんで見つけたら、皆さん、「買い」ですよ!
古きよき、美しきピアノトリオ
■第1位:レイ・ブライアント「レイ・ブライアント・トリオ」レイ・ブライアント「レイ・ブライアント・トリオ」 1957年。レイ・ブライアント(p)、アイク・アイザックス(b)、スペックス・ライト(ds) 1) GOLDEN EARRINGS 2) ANGEL EYES 3) BLUES CHANGES 4) SPLITTIN' 5) DJANGO 6) THE THRILL IS GONE 7) DAAHOLD 8) SONAR |
1931年生まれの彼は、マイルスやロリンズらジャズジャイアンツと同世代。彼らはもちろん、カーメン・マクレエ(vo)らとの共演をとおして知名度を挙げました。自己のトリオで評化を高めていったのは60年代以降とのことですので、本作をリリースした当時はそれほど売れていなかったのかもしれません(詳細は不明)。
ともあれ、本作、それから「レイ・ブライアント・プレイズ」という作品が入手しやすい2枚となっています。どちらもお勧めですが、まずは本作で「GOLDEN EARRINGS」を聴いていただきたい。叙情性豊かな楽曲と、他のミュージシャンとは違う、どこか粘り気のあるような独特のリズム感に、はまる人ははまってしまうんじゃないかと思います。
かく言う私もそのひとり。ジャケットを見るとなんとも、おしゃれからは程遠いおじさんなんですが(笑)、美しく、物悲しいピアノを聴かせてくれます。
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