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60年代のジャズ喫茶を彷彿とさせる! 名曲ジャズアルバムベスト5

60年代のジャズ喫茶を彷彿とさせるジャズアルバムをランキングしてみました。格付けの基準はただひとつ、「ジャズ黄金時代にひたれるアルバム」です。「ああ、あれはよくかかっていたなあ」と思っていただけそうな名曲をセレクトしてみました。

執筆者:鳥居 直介

「ジャズ黄金時代」にひたれるベスト5

60年代の名曲ジャズ

60年代の名曲ジャズ

かつて、日本にはジャズ喫茶文化がありました。頑固親父がマニアックなジャズレコードを大音量でかけ続け、客は1杯のコーヒーで長時間居座る。70年代に生まれたガイドにとって、正直なところそれは想像の中の世界でしかありません(もっとも、いまでもそういうスタイルを続けているお店もありますが、お客さんのほうは確実に変化していますよね)。

60年代のジャズ喫茶で聴かれていたジャズのうち、今でもCDが売れ続けているのはマイルス、エヴァンス、あるいはアート・ブレイキーといったビッグネームが中心。しかし、その時代に聴かれていたジャズは、ジャズという音楽に歴史上もっとも人材と注目が集まったいわば「黄金時代」であり、それらのビッグネームを除いても、まだまだすばらしい作品がたくさん残されています。

今回の記事では、60年代のジャズ喫茶を彷彿とさせるアルバムをランキングしてみました。格付けの基準はただひとつ、「ジャズ黄金時代にひたれるアルバム」です。広義の名盤はもちろん含まれていますが、前述のようなビッグネームはあえて選考から外し、当時を知る人から「ああ、あれはよくかかっていたなあ」と思っていただけそうなものをセレクトしてみました。
 

哀愁ただようギターの調べ

■第5位:グラント・グリーン「アイドル・モーメント」
グラント・グリーン「アイドル・モーメント」
グラント・グリーン「アイドル・モーメント」
1963年。ブルーノートのソングメーカー、デューク・ピアソンと、アルフレッド・ライオンお気に入りギタリスト、グラント・グリーンのコラボ色の強いアルバム。表題作はピアソン作曲で、全体にグリーンののほほんとした味よりは、緊張感ある、シリアスな演奏が続く。

グラント・グリーン(g)、デューク・ピアソン(p)、ボブ・クランショウ(b)、アル・ヘアウッド(ds)、ジョー・ヘンダーソン(ts)、ボビー・ハッチャーソン(vib)
1. Idle Moments
2. Jean de Fleur
3. Jean de Fleur [Alternate Version]
4. Django
5. Django [Alternate Version]
6. Nomad
グラント・グリーンというギタリストは、たとえばウェス・モンゴメリーとか、バーニー・ケッセル、あるいは時代を下ってジョージ・ベンソンといった人たちに比べると影が薄い印象があります。

ただ、グリーンは、かの「ブルーノートレーベル」の創始者、アルフレッド・ライオンにもっとも愛されたギタリストであり、そのプレイは、今聴きなおしてみると独特の魅力にあふれています。

決して速いフレーズを弾くわけでもなく、変わった音使いをするわけでもない。ビバップを踏まえながらも、ブルージーなフレーズを中心とした、シンプルで耳になじみやすいアドリヴを展開したグリーンには、コアなファンが今でも多くおり、プロのギタリストにもファンが少なからずいます。

「時代を代表する1枚」を選ぶとき、ギタージャズが選ばれることはあまりありません。でも、この1枚がかもしだす雰囲気は、間違いなく「ジャズがもっとも元気だった時代」の楽しさにあふれている、と私は思います。ガイドがギタリストという理由もないわけではありませんが(笑)、自信をもってお勧めできる一枚です。

 

歌心あふれる楽曲とアドリヴ

■第4位:デューク・ピアソン「スイート・ハニー・ビー」
デューク・ピアソン「スイート・ハニー・ビー」
デューク・ピアソン「スイート・ハニー・ビー」
1966年。ブルーノートきってのソングメーカー、デューク・ピアソンのリーダー・アルバム。
デューク・ピアソン(p)、フレディ・ハバード(sx)、ジェームス・スポールディング(sx)、ジョー・ヘンダーソン(ts)、ロン・カーター(b)ほか
1. スイート・ハニー・ビー
2. スーデル
3. アフター・ザ・レイン
4. ガスライト
5. ビッグ・バーサ
6. エンパシー
7. レディ・ルディ?
またもブルーノートレーベルからのセレクトです。この時代の名作をさらおうとすると、どうしてもこのレーベルを外すことはできないということでしょう。第5位のグリーンの作品でピアノを弾いていたデューク・ピアソンのリーダー・アルバムで、彼の作品の中ではおそらくいちばんのヒット作でしょう。

「ジャズピアニストといえば」という質問をしたとき、この人の名前が挙がってくる順位は非常に低いと思うのですが、彼は別にマイナーな存在であったわけではありません。若い頃にジャズ喫茶に通っていた方であれば、彼の演奏を聴いたことがない、という人は少ないはず。当時のジャズファンの間でも、十分に高い評化を得ていたピアニストなのです。

にもかかわらず、近年、あまり取り上げられなくなったのはなぜなんでしょうか。モンク、エヴァンスほどのビッグネームに肩を並べることはなくても、たとえばトミー・フラナガン、エディ・ヒギンズ、ウイントン・ケリーらといったピアニストに負けない評価と人気があっても不思議じゃない、味わいのあるピアニストだと私は思います。

デューク・ピアソンは、ブルーノートレーベル所属ミュージシャンの中でも、作編曲力を高く評価されたピアニストでした。そんな彼のアドリヴは歌心にあふれ、またバンドサウンドも安心して楽しめる、洗練されたものです。

また、5位、4位ともサックスで登場するジョー・ヘンダーソンのプレイも、安心感という意味ではピカイチ。ジャズらしいジャズを楽しめます。
 

「ジャズ=楽しきもの」の真骨頂

■第3位:オスカー・ピーターソン「ナイトトレイン」
オスカー・ピーターソン「ナイトトレイン」
オスカー・ピーターソン「ナイトトレイン」
1962年。オスカー・ピーターソン(p)、レイ・ブラウン(b)、エド・シグペン(ds)のトリオは、59年以来不動の「オスカーピーターソントリオ」のメンバー。ピーターソンのスタジオ録音盤としては最高傑作といわれる作品だ。
1. Happy-Go-Lucky Local (aka Night Train)
2. C-Jam Blues
3. Georgia on My Mind
4. Bags' Groove
5. Moten Swing
6. Easy Does It
ほか
ジャズメンには、眉間にしわを寄せ、無から有を生み出すような苦しみのなかで、人の心をえぐるような音をつむぎ出すタイプと、にこやかに、人を楽しませることを至上の目的として、決して力まず、弛まず、出し惜しみをせず、温かなフレーズをつむぐタイプの、大きく分けて2タイプがあるように思います。

後者のタイプの代表選手が、古くはサッチモ(ルイ・アームストロング)であり、60年代以降ではこのオスカー・ピーターソンであった、といえるでしょう。たとえば同じ時代、ジョン・コルトレーンは録音アルバムでも10分、15分といった長さのソロを吹きまくっていたのに対し、ピーターソンの演奏は2分半が標準。長くても1曲が5分を超えるということはほとんどありませんでした。

選曲も、お客さんが聴きたいと思うならば、という精神がかいまみえる、大衆性に満ちたセレクションです。

本作は、そういうジャズ・エンターテナーであるピーターソンのアルバムのなかでも、芸術性と大衆性が見事に同居しているという意味で、名作中の名作といっていいものです。

「ジャズは楽しいものなんだよ」という、天国にいる彼の穏和な笑顔を思い浮かべながら、聴いていただきたいアルバムです。
 

「ジャズ=楽しきもの」の真骨頂

■第2位:デクスター・ゴードン「アワ・マン・イン・パリス」
デクスター・ゴードン「アワ・マン・イン・パリス」
デクスター・ゴードン「アワ・マン・イン・パリス」
1963年。パリに移住したデクスター・ゴードンが、ブルーノートレーベルに残した佳作。デクスター・ゴードン(ts)、バド・パウエル(p)、ケニー・クラーク(ds)、ピエール・ミシェル(b)
1. Scrapple from the Apple
2. Willow Weep for Me
3. Broadway
4. Stairway to the Stars
5. Night in Tunisia
6. Love Is Here to Stay
7. Like Someone in Love
ほか
ジョン・コルトレーンとソニー・ロリンズ。チャーリー・パーカーの死後のジャズサックス奏者は、常にこの2人の巨人を意識せずにはおれなかっただろうと思います。聴衆も同様。サックスといえばまずこの2人の名前を挙げざるを得ないし、そのことは知らず知らずのうちに、他の偉大なサックスプレイヤーの記憶を遠ざけてしまうことになりがちです。

デクスター・ゴードンのプレイは、レスター・ヤング、チャーリー・パーカーといったビバップの先人のメソッドを正確に引き継ぎつつも、ハードバップというスタイルが持っていたある種の「定型性」を厭わない、大衆性のあるものでした。

特に、彼の得意技であった、有名曲のフレーズを他の曲の意外なところで引用して見せるテクニックは、ときに「受け狙い」と揶揄されることもありましたが、すばらしい「アート」であったと私は思います。

本作でも、「Stairway to the Stars」「Night in Tunisia」といった名曲で、これでもかというようなデックス節を聴かせてくれています。非常に聴き所のある名作といえるでしょう。

さて、ゴードンといえば、映画『ラウンド・ミッドナイト』の主演を演じ、アカデミー賞候補にも挙がったことで有名。もし興味がわいた方がいらっしゃれば、レンタルビデオ店で探してみてください。大きなお店であれば、必ずといっていいほど、音楽映画の一隅に鎮座する、名作です。

追記:ほんとは、第2位にはデクスター・ゴードンの名作2枚組、「モンマルトル・コレクション」という名盤をご紹介する予定でした。が、現在どうも廃盤中のようで、ネットオークションでは1万円を超える高値がついておりました。中古レコード屋さんで見つけたら、皆さん、「買い」ですよ!
 

古きよき、美しきピアノトリオ

■第1位:レイ・ブライアント「レイ・ブライアント・トリオ」
レイ・ブライアント「レイ・ブライアント・トリオ」
レイ・ブライアント「レイ・ブライアント・トリオ」
1957年。レイ・ブライアント(p)、アイク・アイザックス(b)、スペックス・ライト(ds)
1) GOLDEN EARRINGS
2) ANGEL EYES
3) BLUES CHANGES
4) SPLITTIN'
5) DJANGO
6) THE THRILL IS GONE
7) DAAHOLD
8) SONAR
1位は、今回紹介したミュージシャンの中では抜群の知名度の低さ(笑)を誇る、レイ・ブライアント(p)にご登場いただきました。レイ・ブラウンなら知っていても、レイ・ブライアントを知らない読者も少なくないでしょう。でも、現役でジャズ喫茶に通っていた世代の方なら、本作の1曲目「GOLDEN EARRINGS」にはきっと聞き覚えがあるはず。

1931年生まれの彼は、マイルスやロリンズらジャズジャイアンツと同世代。彼らはもちろん、カーメン・マクレエ(vo)らとの共演をとおして知名度を挙げました。自己のトリオで評化を高めていったのは60年代以降とのことですので、本作をリリースした当時はそれほど売れていなかったのかもしれません(詳細は不明)。

ともあれ、本作、それから「レイ・ブライアント・プレイズ」という作品が入手しやすい2枚となっています。どちらもお勧めですが、まずは本作で「GOLDEN EARRINGS」を聴いていただきたい。叙情性豊かな楽曲と、他のミュージシャンとは違う、どこか粘り気のあるような独特のリズム感に、はまる人ははまってしまうんじゃないかと思います。

かく言う私もそのひとり。ジャケットを見るとなんとも、おしゃれからは程遠いおじさんなんですが(笑)、美しく、物悲しいピアノを聴かせてくれます。

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