ジャズのおすすめCD12選! 1年でジャズ通になれる12枚を紹介
ジャズ初心者におすすめのCD12選
「ジャズを聴いてみたいけれど、なんとなく敷居が高い」ということをよく耳にしますが、実際にはそれほど構えなければならないことはありません。ジャズはポップミュージック、大衆音楽が起源であり、そのルーツには「楽しければいい」という精神があります。
とはいえ、ジャズコーナーにあるあまりにも膨大なCDの山を見たら、何から手をつけていいかわからない、という気になるのもうなづけます。
ここでは、「ひと月一枚」で1年分、12枚のジャズCDをご紹介します。入門版といえるものも、そうでないものもありますが、1年間通して聴きこんでいただければ「通」といって差し支えない、力のある作品をチョイスしました。記事を参考に、ジャズ通への道を歩んでいただければ幸いです。
<目次>
【春】ジャズの基本にして帝王の「セッション」のCD3選
■1月:マイルス・デイヴィス『Workin'』マイルス・デイヴィス『Workin'』 1955年。 1. It Never Entered My Mind 2. Four 3. In Your Own Sweet Way 4. Theme 5. Trane's Blues 6. Ahmad's Blues 7. Half Nelson 8. Theme |
この「Workin'」は、2月、3月でも紹介するアルバムといわば「兄弟関係」にある作品です。本作が録音された1955年ごろ、マイルスはそれまで所属していたプレスティッジというジャズ専門レーベルから、メジャーレーベルであるコロンビアに移籍しようとしていました。
しかし、プレスティッジとの契約はいまだ残っており、マイルスは契約を消化するために後に「マラソン・セッション」と呼ばれる2日間での短期集中レコーディングに挑みます。
「Cookin'」「Steamin'」「Relaxin'」とこの「Workin'」に収録された演奏は、すべてこの2日間に録音されたもの。このようなすばらしいクオリティとオリジナリティを兼ね備えた、世界で唯一無二の芸術作品がたった1日2日で収録できてしまう。ジャズのおもしろさの1つがここにあります。
■2月:マイルス・デイヴィス『Relaxin'』
マイルス・デイヴィス『Relaxin'』 1955年。 1. If I Were a Bell 2. You're My Everything 3. I Could Write a Book 4. Oleo 5. It Could Happen to You 6. Woody 'N You 試聴する |
そのことはアレンジだけでなく、選曲にもいえます。つまり、ジャズは本来、どんな曲であっても自由にアレンジして、即興演奏を行なえるはずのものなのですが、ある種の楽曲は、ジャズ即興演奏でしばしば取り上げられる定番、スタンダードとして定着しています。そして、そうしたスタンダード曲は、多くの場合、マイルスらジャズ・ジャイアンツの名演によってスタンダードとして認知されるようになったものが多いのです。
1月に挙げた「Four」や、今回の「Cookin'」に収録されている「If I Were a Bell」「You're My Everything」「I Could Write a Book」「Oleo」「It Could Happen to You」「Woody 'N You」(つまり、全部ですが)などの曲はすべてスタンダードですが、これらがスタンダードとして記憶されるようになった大きな理由の1つとして、本作での名演がある、というわけです。
これらの曲はスタンダードですから、他のジャズミュージシャンもしばしば取り上げています。そうした演奏を聴くときに、マイルスのものと比較して聴く、というのはジャズの楽しみ方の王道の1つです。なぜなら、ジャズを志す人間で、これらの演奏に触れていない人はまずいないからです。
■3月:マイルス・デイヴィス『Cookin'』
マイルス・デイヴィス『Cookin'』 1955年 1. My Funny Valentine 2. Blues by Five 3. Airegin 4. Tune-Up/When Lights Are Low 6. Just Squeeze Me (But Don't Tease Me) |
『Cookin'』を紹介する理由の1つは、1曲目に収録された『1. My Funny Valentine』の名演を聴いてほしかったから。これも、マイルスの演奏でジャズスタンダードとしての地歩を固めた楽曲の1つです。
3枚のマラソン・セッションをじっくりと聞き込むことで、ジャズのスタンダードといっても、本当にいろんなタイプの曲があるということがわかるでしょう。また、アドリブといっても、とんでもないスピードで音を詰め込むようなものから、行間を空け、聴かせるようなソロまで、いろいろあるんだということが実感できたかと思います。
ちなみに、マラソンセッションのメンバーは、Miles Davis (tp)、ジョン・コルトレーン、レッド・ガーランド(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) です。
これらのメンバーの名前は、ジャズ通をめざす人であれば覚えておいて損はありません。それぞれの楽器の分野で、少なくともある側面では頂点を極めた人たちであると思います。
【夏】ジャズのピアノ・レジェンドによるおすすめCD3選
1月から3月の間、“帝王”マイルスを聴き込んだあなたは、すでにジャズ初心者ではありません。ここからは、自分好みのジャズを探していきましょう。ただ、好みというのはいきなり定まるものではありません。多様なジャズのスタイルをひととおりは押さえたうえで初めて自分の好みがわかる、そういうものです。では、ジャズの好みを分けるのは何か? ここでは、基本的なコンボにおけるカラーをもっとも顕著に左右してしまう楽器である「ピアノ」に焦点をあててみましょう。さまざまなピアニストの演奏を聴いていただくことで、ジャズの多様なスタイルを楽しんでいただきたいと思います。
■4月:バド・パウエル『ザ・シーン・チェンジズ』
ビ・バップについての詳細は、過去の記事を参照していただくこととして、ここでは簡単にバド・パウエルのようなピアノスタイルが後世に与えた影響を少し解説しておきたいと思います。
ビ・バップは革命的な音楽だった、と言われます。どこが革命的だったかということを一言で言えば「口ずさめない音楽である」ということ。それまでの音楽はクラシックであれ、ポップスであれ、鼻歌なりで口ずさむことが可能でした。
しかし、このCDを聴けばおわかりのように、テーマのメロディはかろうじて口ずさめますが、アドリヴは一回や二回聴いてもさっぱり頭に入ってこないのではないかと思います。テーマそのものも、テンポが速すぎて、どう考えても口ずさむには向かない。
実は、ビバップのアドリヴの背景には、数学的・理論的な音楽の捉え方があります。いわゆる「歌」ではない「音楽」あるいは「アートとしての音楽」への志向がはっきりと出てきたのが、ビ・バップというスタイルの革命性なのです。
まったく「意味」がはっきりしない、にもかかわらず聴いていると楽しく、高揚感を覚える。今の音楽ジャンルでいえばダンスミュージックなどに通じるような感性というのは、実はその原点をビ・バップに求めることができるのです。
■5月:ビル・エヴァンス「Portrait in Jazz」
ビル・エヴァンスの本作における演奏法は、理論的には「モード」と呼ばれる手法を積極的に取り入れていますが、とりあえずは細かな理論のことは無視して、全体の雰囲気を聞き比べて見てください。
人によって感じ方、あるいは言葉の表現は違うかもしれませんが、バド・パウエルやレッド・ガーランドの演奏に比べて、空間が広く、どことなく自由さの幅が広がっているように感じないでしょうか?
また、ドラム、ベースの演奏も、たとえばパウエルのトリオと比べると、それぞれ自由に、個々の表現を追及しているように聞えます。
エヴァンスのスタイルは、パウエルに代表されるビバップスタイルとともに、その後のジャズピアノのスタイルに長く影響を与え続けています。エヴァンスの作品を聴き込んでおけば、現代活躍するピアニストを聴くときにもさまざまなかたちでその影響を感じることができます。
■6月:セロニアス・モンク『ソロ・モンク』
モンクの音楽は異端であり、同時に王道でもあった。ここに、ジャズという音楽のおもしろさがあるように思います。常に新しいものを求め、新しいものが次の日に古くなってしまうような革命性こそを推進力にしてきたジャズミュージックにおいて、モンクは常に「新しさ」を生み出し続けていました。しかも、その「新しさ」は、常に時代とは無関係の「独自性」に根ざしたものであり、その意味では「先進性」というより「新鮮さ」を提供し続けたといえるでしょう。
余談ですが、この「ソロ・モンク」は、なぜかジャズ初心者にも人気が高い作品です。メロディが親しみやすいのかもしれませんが、なかなかどうして深みのある作品です。ぜひ、聴き込んでいただければよいと思います。
【秋】唸りをあげるサックスの系譜を楽しむおすすめCD3選
4~6月はピアノに焦点をあてましたが、7月~9月ではサックスに焦点を当ててみます。サックスの音色と音域(※アルトサックスの場合)は、もっとも人の声に近いと言われ、アドリヴを行うのにもっとも向いた楽器といわれます。実際、ビバップ(40~50年代)のスターであるチャーリー・パーカー、ハードバップ(50年代後半)以降のスターであるコルトレーン、ロリンズなどはみな、サックス奏者でした。ここにあげた三人のアルバムを追うだけでも、ジャズがもっとも華やかだった時代の音楽を知ることができるでしょう。
■7月:チャーリー・パーカー『ナウズ・ザ・タイム』
チャーリー・パーカー『ナウズ・ザ・タイム』 1952年。 曲目 1. ザ・ソング・イズ・ユー 2. レアード・ベアード 3. キム(別テイク) 4. キム 5. コズミック・レイズ 6. コズミック・レイズ(別テイク) 7. チ・チ(別テイク) 8. チ・チ 9. チ・チ(別テイク) 10. チ・チ 11. アイ・リメンバー・ユー 12. ナウズ・ザ・タイム 13. コンファメーション |
理由はいくつかありますが、まず、録音状態がよくないということ。また、パーカーの演奏は、慣れないうちはテンポが速すぎることもあって、あまりゆっくり楽しめないということがあります。
とはいえ、この記事の、1~6月の紹介アルバムを一通り聴き込んでいただいた皆さんであればきっと、パーカーのアドリブの切れ味や、創造性のものすごさをご理解いただけることと思います。
本作はバードの晩年(といっても30代ですが)に録音されたものであることや、市場にもっとも出回っている録音であるためにいわゆる「バードファン」(※「バード」はチャーリーパーカーの愛称)にはあまり評判がよくない一枚ですが、個人的には演奏そのものはいいと思っていますし、また録音状態は他のものと比べるべくもないのでこれをご紹介しました。
■8月:ジョン・コルトレーン『マイ・フェイヴァリット・シングス』
ジョン・コルトレーン『マイ・フェイヴァリット・シングス』 ジョン・コルトレーン (アーティスト, 演奏), マッコイ・タイナー (演奏), スティーヴ・デイヴィス (演奏), エルヴィン・ジョーンズ (演奏) 曲目 1. マイ・フェイヴァリット・シングス 2. エヴリタイム・ウイ・セイ・グッドバイ 3. サマータイム 4. バット・ノット・フォー・ミー |
彼の残した演奏には多様な側面がありなかなか一言で表現をすることははばかられるのですが、ここでは1曲目の「マイ・フェイバリット・シングス」に見られるような、長~いソロについて。
ジャズ初心者にとってどうしても敷居が高くなってしまいがちなジャズの長~いアドリブ。この系譜は、どうやらジョン・コルトレーンにあります。「瞑想的」と形容されることもある、似た音形を繰り返し繰り返し積み上げていくようなソロスタイルは、求道者という異名も持っていたジョン・コルトレーンが得意とするスタイルでした。
ジョン・コルトレーンは本国、アメリカでの人気もさることながら、日本のジャズファンの間での人気が特に際立っています。遊びにも出ず、自宅に引きこもって練習を続けていたという道を究める姿勢が、日本人の好みに合っていたのかもしれません。また、若くしてこの世を去ったというところも、趣味に合ったのかもしれませんね。
ともあれ、サックスのひとつの形を作り上げた一人であることは間違いなく、現代でも、サックスを聴くのであれば忘れてはいけない一人です。
■9月:ソニー・ロリンズ『サキソフォン・コロッサス』
ソニー・ロリンズ『サキソフォン・コロッサス』 1956年 1.St. Thomas 2.You Don't Know What Love Is 3.Strode Rode 4.Moritat 5.Blue 7 |
彼が若干20代でジャズシーンに鮮烈に売り出したリーダー作が本作。ほとばしるようなパワーにあふれた演奏で、テナー・サックスを志す人間が避けて通れない作品となっています。
この作品を紹介した理由はもうひとつあります。それは、ロリンズがカリブ海ミュージックのアイデンティティを強く持っていたということ。「St. Thomas」や「Moritat」には、そんな彼の独特のリズム感が良く出たアドリヴとなっています。
基本となるリズムとは別に、個々のミュージシャン独特のリズム感、タイム感が色濃く表れる音楽、それがジャズなのです。
【冬】最先端のジャズの展開を学ぶおすすめCD3選
さて、いよいよこの記事も最後の1クール。10~12月では、最先端のジャズをいくつか取り上げて見ましょう。■10月:EQ『The Earth Quartet』
この4人は、これ以前の段階ですでに、日本のジャズ界屈指のプレイヤーとして知られていましたが、小池修の声かけによりユニットを結成。そのコンセプトは、オリジナルを中心に、アレンジを練って、特定のリーダーを置かないユニットとして活動する、というものでした。
彼らがこうしたコンセプトのもとユニットを結成した背景には、安易なセッション録音のものが市場の大半を占めるという、日本ジャズ界への危機感があったものと思われます。
今回の記事の1~3月で紹介したマイルスのマラソン・セッションに代表されるように、その日に合ったばかりのメンバーが、譜面ひとつで完成度の高い録音を行うことができる、というのはジャズという音楽が持つ強みのひとつではあります。しかし、そのメリットの影で、バンドで音を練り、1つの作品を完成させるという、他の音楽ジャンルであればあたりまえの作業がおざなりにされてきた側面がありました。
EQの登場は、そうした傾向に対する明確な答えとなっていました。練りに練ったアレンジのもと、最高のメンバーが演奏を行えばどんなことになるのか。その答えがここにあります。
■11月:Steely Dan『Two Against Nature』
彼らの音楽は、厳密にいうとジャズではなく、ジャズの知的な部分を吸収したロック、ということができるでしょう。ただ、その精神はいわゆるロックンロールからは程遠く、むしろコルトレーンやエヴァンスらに共通するような、実験・研究精神に満ち満ちたものといえます。
テクニカルだけれど、テクニックを前面に押し出すわけではなく、理論的だけれど、充分に歌っているフレーズ。私は、彼らの音楽をジャズの進化形の1つとして捉えています。
■12月:ブラッド・メルドー、パット・メセニー『メセニー・メルドー』
本作は、2人のデュオアルバムですが、ギター&ピアノとは思えない、異様な熱のある、盛り上がった演奏を聴かせてくれます。
彼らのプレーの背景にあるのはパウエルやパーカーらのビバップ、それからガーランド、エヴァンス、マイルスらのさまざまな取り組み、その後に現れた数多の天才たちの足跡です。
こうした最先端のジャズの背景に、この記事で紹介したような40~60年代のジャズの片鱗が聞えてくるようになれば、あなたも立派な「ジャズ通」でしょう。
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