ポール・チェンバース(ベース 1935~1969) モダンジャズの名盤とうたわれるものに、これだけ多くクレジットされているミュージシャンはなかなか挙げられません。今回はモダンジャズ史を作った男の一人、ベースのポール・チェンバースを紹介していこうと思います。 ※ジャケット写真がAmazon.comにリンクしています。 ポール・チェンバースといえば、マイルス・デイビスの黄金時代を支えたミュージシャンとして有名。マイルスバンドでタッグを組むピアノのレッド・ガーランドやウィントン・ケリー、ドラムのフィリー・ジョー・ジョーンズやジミー・コブらとの活動は、マイルスバンドの枠を超え、多くのミュージシャンのボトムを支えた。その中心にいるのがポール・チェンバースであり、あの乾いた、軽快なベースランニングであった。 ポール・チェンバースはコテコテのバップミュージシャンである。ソロがまわってきたときの瞬発力はものすごい。スイッチが入ってしまったチャーリー・パーカーよろしく、猛烈な勢いでソロを弾き始める。お得意はアルコ(弓)奏法。その演奏を見たわけではないが、恐らくノコギリをひく姿そのものであったのだろう。そこから生まれるサウンドはビバップであった。ビバップフレーズのような速いパッセージは、指で弾くにはパワー不足だったのだろうか、チャンバースは弓弾きをトレードマークとしてその名をはせる。 マイルスに抜擢されたのが55年で20歳そこそこであった。それまでマイルスバンドのベーシストをつとめていたのは、パーシー・ヒースを中心にオスカー・ぺティフォードやチャールス・ミンガスなど、一癖も二癖もあるツワモノぞろい。「何でこんな若造を…」と評論家たちの否定的な意見もおおかった。しかしこの頃からマイルスは若手を育てることに意欲を燃やしだすのであった。同じくけちょんけちょんに言われていたサックスのジョン・コルトレーンらで構成された新生マイルスバンドは、現在でもモダンジャズ史上最高のコンボのひとつに挙げられている。 それでは参加アルバムを見ていきたい。 モダンジャズ史上最高のバンドの最高のアルバムに挙げられる最有力ノミネート作品がこの『カインド・オブ・ブルー』。ビル・エバンス(p)とチェンバースによる厳かなオープニングは、新しいジャズの幕開けを予感させる。バップイディオムから脱し、アドリブでメロディを作り出していくというマイルスの真骨頂は、この作品から呼ばれるようになったモードジャズという形で更に開花するのである。 詳しくはこちらを見ていただきたい。 コルトレーンが他のプレーヤーとはちょっと違うよ、と思わせられざるをえない作品。速い曲ではチェンバースのノコギリが炸裂!とは言うものの、注意を向けていただきたいのはやはりベースランニング。粒立ちの良いドライブ感のあるベースがバンドをグイグイ引っぱっているのがわかる。モダンジャズの顔とも言えるソリスト達が思わず触発されてしまうゴキゲンなサポートだ。 モダンジャズbest10で必ずと言っていいほど挙げられる作品。ジャケットを部屋に飾っているために、レコード盤とジャケットが常に別々にされていたり、2枚購入されるという例が少なくはないという。ブルージーな雰囲気がたまらないこの作品でもチェンバースのアルコが火を噴く。「お約束」が盛り沢山の、考えずに楽しめる名盤だ。 一曲目の「蓮の花」しか記憶にないという方も少なくはないのでは?このアルバムは、一曲で姿を消してしまう歌手同様に、一曲のおかげで名盤になってしまったマイルスの『サムシン・エルス』パターンに分類されるだろう。 ギターのウェス・モンゴメリーの最高傑作!音質も最高で演奏も最高!ウィントン・ケリー、ジミー・コブ、チェンバースというマイルスバンドのレンタルトリオを得たウェスが、「小さな巨人」ジョニー・グリフィン(S)と暴れまくる。ライブ盤ということもあてその熱気がダイレクトに伝わってくる作品だ。 今回紹介したアルバムは、ポール・チェンバースの参加するモダンジャズの名盤のなかでもほんのごく一部。34年という短い生涯の中で、恐ろしいほど深く足跡を残しています。最後に、ポール・チェンバースの映像(trumpetstuff.comより)を。有名な映像ですが、現時点ではこれしかないというチェンバースの動く姿です。 関連リンク:ジャズベース特集 『JAZZ GIANT』バックナンバー: Vol.1ライオネル・ハンプトン
Vol.2クリフォード・ブラウン
Vol.3グラント・グリーン
Vol.4ハリー・ジェイムス
Vol.5アート・ブレイキー Vol.6バド・パウエル
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文章: 佐久間 啓輔(All About「ジャズ」旧ガイド)
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