■非可逆性の圧縮方式
では、もうここでオーディオ圧縮は無理、という結論にはなりません。そう、MP3のようにオーディオを効率よく圧縮する手段というのがいろいろあるのです。しかし、ここで登場してくるのはすべて非可逆性の圧縮方式なのです。
つまりLHaやZIPなどのように圧縮したものを解凍しても、完全に元には戻らないという方式なのです。確かにコンピュータのソフトウェアなどを圧縮する場合、それが完全に元に復元できなければ何の意味もないでしょう。しかし、オーディオの場合多少状況が違うのです。そう、人間の耳で聞いて、違いが感じられなければそれでいいわけです。
非可逆性の圧縮というよりは変換の代表的なものがサンプリングレートやサンプリングビット数のダウンコンバートです。つまり44.1kHz、16bitでサンプリングされたデータを22.05kHz、8bitとか11.025kHz、8bitへ変換すると、音は聞こえるし、容量も小さくなりますが、後で44.1kHz、16bitへ再変換しても音は元のものではありませんし、もちろん11.05kHz、8bitのデータは誰が聞いても音質はずいぶんと悪くなっています。ただし、容量的にいえば1/8になります。
では、これがこここでいう圧縮かというとそうではありません。音質が明らかに悪くなってしまったのでは、どうしようもありませんから。次の章から取り上げるのは、音質を保ちつついかに圧縮するかということについてです。
■国際規格となったオーディオ圧縮技術MP3
さて、ここで登場してくるのがMP3です。正確にはMPEG1 Audio Layer 3の略なのですが、これはMPEG1というビデオCDにも使われている動画の圧縮規格の中で、オーディオを定義したもののひとつです。ビデオCDでMP3が使われることはありませんが、動画圧縮規格から派生したもののひとつで、国際的な規格なんです。
これも非可逆性の圧縮方式なのですが、さきほどのダウンコンバートと異なり、ちょっと聞いただけでは音質の違いは分かりません。しかも、ダウンコンバートよりもさらにファイルサイズは小さくなるのです。
まあMP3にも、ビットレートという単位があって、これによってファイルサイズも異なってくるものの、一般によく用いられる128kbpsでは、約1/11というコンパクトなサイズになってしまいます。そのため、先ほど例に示した45秒のWAVファイルの場合、MP3にするとそのサイズは704KBと単位がひとつ変わってしまうのです。だからこそ、ネットでやりとりすることが苦なく行えるわけなのです。