DJというとターテーブルをふたつまわして、スクラッチさせながらミックスするというイメージが強くあります。もっともDJの定義というのも難しそうですが、スクラッチなども含め複数の曲をミキシングして新しい音楽を作っていく手法だとすると、それに対応したソフトというのがいろいろ出てきています。
その中でも最新作で、非常に強力な機能をもったものがドイツのNative Instrumentsが開発したTRAKTORというソフトです。ご存知の方も多いと思いますが、Native InstrumentsはProphet 5のシミューレータであるソフトシンセ、Pro-FiveやPro-52を開発したメーカーで、古くはReaktorでも有名なメーカーで、国内ではミディアが販売代理店となっています(Pro-Five、Pro-52のみは世界的にSteinbergが取り扱っている)。
そのNative Instrumentsのソフトだけに、TRAKTORは一風変ったものに仕上がっています。DJソフトの多くはターンテーブルなどをモチーフにしたユーザーインターフェイスになっているのに対し、TRAKTORは左右にオーディオ波形が表示されるというものなっています。
実際、このソフトではCDを直接取り込めるほか、WAVファイルやMP3ファイルをオーディオデータとして読み込み、波形表示させてミキシングするようになっています。しかし、実際に触ってみると、ここにはDJソフトなんかにしておくにはもったいないほど、ものすごい機能が詰まっているのです。
まずをオーディオデータを読み込んでプレイすると、なんと波形の上に自動的にテンポが表示されています。そうMIDIでもないのに、テンポを自動抽出してくれるのです。さらに、このテンポを自分で変更することも可能となっています。ReCycle!やACID、またCubaseVSTといったソフトでもある程度のテンポ抽出機能を持ったソフトはありますが、ここまで簡単にテンポを抽出できるソフトというのはなかったのではないでしょうか。
そしてシンクロ機能を使うことによって、左右に読み込んだ2つのオーディオファイルのテンポを同期させてしまうといったことも可能。これはDJソフトとしての中枢部分といってもいいだでしょう。
また、この手のソフトでダンスミュージックを作っていく際、求められる機能としてフィルタがあります。レゾナンスやカットオフを利用して音質を変化させるためのものですが、TRAKTORはEQ(イコライザ)として、このフィルタ機能が搭載されていて、その内容は非常に充実しています。実際、このフィルタとほぼ同じエンジンを持ったソフトシンセであるREAKTORは渋谷のDJの間でブームとなっているらしく、国内での実績もあります。使ってみると、サウンドがかなりドラスティックに変化してくれて楽しめるのです。
そして極めつけともいえるのが、ループ機能。ある位置から2小節分とか4小節分で切り出して、ループさせることが簡単にできてしまうのです。「だいたい、この辺」と指定するだけで、ピッタリのタイミングから4小節分を見つけ出し、ループ演奏してくれます。これも、従来のソフトの中でも最高といえる簡単さ、正確さです。
このような機能を元にリアルタイムに演奏したり、WAVファイルでミキシング結果を保存することができるのですが、さすがにDJソフトなのでできるのはここまで。可能であれば、こうしてつくったループをブレークビーツ部品として取り出せると非常に面白かったのですが……。できれば、今後こうした機能を利用できるツールを開発してくれると嬉しいですね。
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