『熊谷陣屋』の弥陀六、『盛綱陣屋』の微妙、『逆櫓』の権四郎、『髪結新三』の家主長兵衛など、時代もの、世話物、立役、女方、若衆、敵役、三枚目、老け役など、とにかくオールマイティな方でした。
筆者の眼に残っているのは又五郎さんの役の中でも、特に弥陀六です。
芝居の終盤、義経に、かつて伏見の里で幼い源義経を助けた平弥平兵衛宗清と見破られます。情け深く、腹の底には相手が誰であろうと一歩も引かない命知らずなふてぶてしさと、そしてどこか粋ですらある男が造形されていました。
この男のこれまでの人生はどんなものだったのだろうか、とついつい想像力を刺激してくれる弥陀六でした。
重い鎧櫃(実は敦盛自身が入っている)を背負い、ぐっとふんばって立ち上がるその姿に心ゆさぶられもしました。
近年では『今昔桃太郎』の長老の犬、平成18年4月『六世中村歌右衛門五年祭追善口上』が最後の舞台出演となり、今年1月2日に行われた「歌舞伎座さよなら公演古式顔寄せ手打ち式」にも出席されたのが最後となりました。