歌舞伎の舞台はよく一つの「絵」のように語られる。その場合全体図の中で、この人物はこういう役割、その人物はそういう役柄と、役柄・機能がはっきりしている。
南北の作品ではそのルールはときに通用しない。「悪いやつだと思ったら、最後には善人に」という単純な二面性でもない。誰もが、誠実なところ、ずるいところ、欲望に弱いところ、残忍なところなど、多面的に描かれているのだ。
典型・役柄によって構成された「絵」ではなく、その時代に生きている人間たちの人生の断面がリアルに描かれ、それを私たちは覗き見しているような気がするのだ。
11月歌舞伎座の『盟三五大切』もその典型。
さて、ごく簡単にあらすじと見どころをご紹介しよう。