この復刊された文庫の彩色が実にきれいです。
明暗のリアルに施された、いわば近代的な美しさではなく、カッキリとシンプルで、長谷川町子のくっきりした描線とマッチしている美しさ。
歌舞伎を土台としたコミックは他にもありますが、あえてリアルにしているものが多いのに比べ、このシンプルな描線と彩色は、歌舞伎を観た時の印象に近いものがあります。
一つ一つの作品のパロディ具合に作者の歌舞伎への執着、愛情、そして造詣の深さを感じます。
もう呼吸するように歌舞伎に触れている。そんな読後感を得ました。
特に衣裳と人間の体の感じがふんわりしていて、自然な感じ。
まさに生活の中にまだまだ和服が普通に存在していた時代だったのだとわかります。歌舞伎の狂言の受容のされかたが現代とまるで違うんです。
当時、まだまだ戦後の匂いのする時代、他に娯楽が少なかったとはいえ、現代よりもずっと歌舞伎が普通の人々の生活に近かった時代を、一つ一つのコマから、じわじわと感じます。
歌舞伎ファンにこそ、ぜひお勧めの一冊です。
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