「新選組!」の中で、中村獅童演じる滝本捨助は架空の人物とされています。ですが、そのモデルとなっているのは松本捨助という男といわれます。このドラマでも、新選組旗揚げに加えてもらえず、京都までやってきても願いかなわず、近藤・土方からしてみれば、武州・多摩の懐かしい存在ではあるけれど、ちょっとやっかいで、「勘弁してほしい」存在。
1868年(慶応4年)、新選組は京都で官軍に敗れます。幕府より甲府城の占拠を命じられ、新選組は甲陽鎮撫隊として甲府へ移ります。捨助は、この甲陽鎮撫隊にやっと隊士として迎えられることになります。ですがこの甲陽鎮撫隊も結局、敗退。捨助も傷を負い敗走します。
その後、土方や斉藤一らとともに、会津、そして蝦夷へと行きますが、やはり土方に説得されて江戸へ戻されます。後、小林隆演じる井上源三郎の姪と結婚し、生家の近くで米屋を開いたということです。享年74歳。
「え~、なんでお前がここにいるの!?」と、昔懐かしい仲間から、いつも邪魔者扱いされる捨助を、獅童がねちっこく、印象的に演じています。架空の存在として捨助は今後も、隊士の間にトラブルを巻き起こしながらも、おそらく土方や斉藤とともに行動することになるのでは?
新しい時代劇のヒーロー像に。
今月は『丹下左膳』 にも挑戦。今年正月の浅草歌舞伎では『毛抜』の粂寺弾正というアクの強い役や、『三人吉三』のお坊吉三や和尚吉三というワルなど、ちょっと凄みのある役がハマっています。三谷新選組の中でどんな新しい隊士(?)像を創り上げてくれるのか、獅童・捨助の本領はこれからかもしれません。そして新しい時代劇の新しいヒーロー像も、中村獅童から始まるのかもしれません。
江戸東京博物館「新選組!」展の図録 |
●要るか要らないのか分からない組織の一員として。
今年の「新選組!」を筆者が一番気に入っているところは、激動する歴史の中で「要るのか要らないのか」分からない、本人たちもその存在意義をいつも確かめざるをえなかった、そんな新選組の一面をしっかり描いていることかもしれません。
一人一人の隊士たちはリアルで時にかっこよく、共感持てる身近な存在として描かれているところももちろん魅力ですが、「新選組」といえば「近藤がいて土方がいて・・・」という従来のイメージをすっぱりなくし、組織のアイデンティティ、そしてそこに属する自分のアイデンティティを隊士それぞれがいつも捜し求める、そんな視点を持ち込んでいるところが新鮮です。
芹沢鴨や新見錦にこんなに出番もセリフも持たせた新選組ドラマなんて、かつてなかったのではないでしょうか。一人一人の人間である隊士たちを描きながら、そこにそこはかとなく漂う「自分たちはなんのためにこんなことしてるのか」という疑問。その疑問を押さえつけるための厳しい隊規、隊規にがんじがらめにされてまた疑問を抱くという堂々巡り。そこをきちんと描いているところがとても好感を持ちます。
その新しい新選組像に大きく貢献している勘太郎・藤堂と、獅童・捨助。まさに対照的な人物を描く二人の歌舞伎役者にこれからも当分注目したいですね。
新選組と歌舞伎の関係 シリーズ(2)もお楽しみに。