まずは劇場が楽しい。
誰よりもおめでたい気分で正月を迎えたい方、あなたにはもう歌舞伎しかないだろう。特に初春の東京・歌舞伎座の異常なばかりの晴れがましさといったらない。建物の外面がまずめでたい。どこか異次元の場所にいるのかと思うほど、銀座4丁目にドーンと鎮座ましますあの歌舞伎座。外国人が正面で手を合わせたりすることもあるそうだが、確かにちょっと拝みたくなるような、神社などにも合い通じる何かを感じさせてくれる建物だ。あの建築様式を唐破風造りというらしい。歌舞伎座だけでなく、名古屋・御園座や京都の南座なども趣の似た造形になっている。古来、芸能は神様に捧げられたもの。まさにそんなことを感じさせる建物なのだ。
中に入ると朱塗りの大柱と緋色の絨毯が迎えてくれる。一挙にアドレナリンがバーッと全身を回るような感覚といえばいいだろうか。気分が高揚したところで耳に入るのがこれまたウキウキするような鳴物の音やチョンチョンと刻まれる柝の音色。目と耳で存分に正月気分を堪能できる。
1月は特に着物姿の観客が多い。たとえお節料理をコンビニで済まそうと、雑煮初詣もパスしようと、ここにいるだけで100%正月気分が盛り上がることうけあいだ。ロビーに役者の奥方などがいようものなら、ますますお得な気分になる。
前置きはいいとして、歌舞伎を初めて観てみようかという方も多いこの月。各劇場のお勧め演目を昼夜1演目ずつご紹介する。ご参考にしていただけるとうれしいです。
●歌舞伎座 興行内容の詳細はココ
昼の部 『義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)』の「鳥居前」の一幕
若い尾上松緑(おのえしょうろく)が佐藤忠信実は源九郎狐を演じる。源義経は兄・頼朝と不仲で追われる身。追ってきた恋人の静御前と伏見稲荷の鳥居前で再会する。でも義経は静かを供に連れて行くことはできないため、「初音の鼓」を形見に渡し、家来の忠信に静を預ける。でもこの忠信、タダモノではなくてなんとこの鼓の皮にされた親を慕うキツネなのだった。華やかな舞台に静や義経、弁慶らの衣裳もハデハデで楽しい。幕切れは「狐六法」という退場の仕方で花道を引っ込む。
夜の部 『花街模様薊色縫(さともようあざみのいろぬい)』の「十六夜清心(いざよいせいしん)」の一幕三場
市川海老蔵を襲名する市川新之助と中村時蔵の美しーいコンビを、まずはじっくり楽しもう。極楽寺の僧・清心と、その子を宿した遊女・十六夜は川に身を投げ心中をはかる。だが二人とも皮肉にも助かってしまい、その後めぐる因果に巻き込まれ・・・。世話物なので台詞も聞きやすく気軽に楽しめる一幕。
時蔵さんのガイド記事もご参照.