歌舞伎/歌舞伎関連情報

作家・近藤史恵さんにインタビュー 江戸時代にタイムスリップできる

ミステリー作家の近藤史恵さんは、歌舞伎ミステリーとでもいえる作品をいくつか執筆しているだけあって大の歌舞伎ファン。歌舞伎への思い入れや知識が随所に詰め込まれています。

執筆者:五十川 晶子

文章:五十川 晶子(All About「歌舞伎」旧ガイド)
近藤さんの歌舞伎ミステリの作品は、一人の歌舞伎好きとしても、ミステリ好きとしてもとても楽しめる内容となっている。それも江戸歌舞伎ではなく、現代の役者達が活躍するという設定が面白い。一人の女方を主軸に据えており、それも梨園の御曹司ではなく養成所卒業者で味のある下っ端の、でもベテランの役者というところが非常に利いているのだ。
また、登場人物達が人生の一番大事だと思っているのは、たとえば「正義」や「勇気」ではなくて、歌舞伎の世界、舞台そのものである。舞台のため、観客を酔わせるためなら、殺人だって「あり」なのだ。言い換えれば、世の中の価値観とちょっとずれた?世界が提示されていて、それは逆に、芝居の世界に棲息している人間達だけが持っているリアリティにつながるように思える。現代の歌舞伎役者たちは、伝統芸能の継承者であると同時に、商業演劇・興行ビジネスの先鋒であるという現実の部分もわかりやすく描かれている。
歌舞伎でミステリー、歌舞伎ファンにもミステリーファンにもうれしい作家である。



近藤さんが最初に歌舞伎を観たのは、
「高校生の時、歌舞伎鑑賞教室で俊寛を。実を言うと、そのときは退屈で、ぐーぐー寝てしまいました。本格的に興味を持ったのは、その少し後。鶴屋南北の桜姫東文章のストーリーをどこかで聞いて、なんておもしろくてアナーキーな話なんだろう、と思ったことです。母もちょうどお芝居好きだったので、それからいろいろ連れて行ってもらいました。大学に入ってから二十代半ばまでの七、八年はかなりヘビーに見ていました。関西の公演はほとんど見て、東京にも夜行バスで行って、昼夜通しで見て、また夜行バスで帰ってくるなどという強行軍を三ヵ月に一度ほどやっていました」。

御贔屓の役者さんを教えてください。

中村鴈治郎さんや中村富十郎さんなどといった、上方の役者さんが好きですね。若手では片岡愛之助さんを贔屓しています。でも、市川団十郎さんのような、まさに江戸歌舞伎そのもののような役者さんも、大好きです。どちらかというと、おっとりとした雰囲気のある役者さんが好きです」

お好きな演目は

「鶴屋南北、河竹黙阿弥のものは、歌舞伎を好きになったきっかけなので、やはり好きです。特に、四谷怪談、桜姫東文章、盟三五大切、忍の惣太、切られお富あたり。どろどろとした人間の暗い部分を描く一方、様式美やユーモラスなところもあって、ドラマとしてかなり好きです。あとは、丸本物。『摂州合邦辻』や『朝顔日記』が好きです。説教などからの流れをしっかり感じられるものが好きですね」。

観劇はどのくらいのペースで?

「最近はペースがゆったりです。三ヵ月に一度くらい。好みの演目や、見たい演目だけ。道頓堀の中座が好きだったのですが、もう閉鎖になってしまって寂しいです。東京では国立劇場がのんびりとした雰囲気で好きです。歌舞伎座も好きだけど、後ろの席だと花道が見えないのはつらいです」。

歌舞伎以外のジャンルの演劇もお好きなようですが、たとえばどのような。作品や役者、劇団、演出家など教えてください。

「大学生の頃、小劇場ブームでよく見ました。最近はあまり見なくなってしまったのですが、新宿梁山泊という劇団は、いまだに好きで、公演があれば見にいきます」。

近藤史恵さんにとって、歌舞伎の魅力を一言で言っていただくと?

「江戸時代にタイムスリップできるところでしょうか」。


現在の歌舞伎について率直なご意見などありましたらお願いします。

「役者さんは、若い方も、歌舞伎が好きで頑張っていらっしゃるのが伝わってきてうれしいです。興行としては、復活狂言や新作狂言など、珍しいものをもっと見たい気がします。今のシステムだと、稽古日程などがあまり取れないので難いでしょうけど」。
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