必ず失恋するためには?
『男はつらいよ あじさいの恋』(1982年)は、シリーズ中一番見て欲しい傑作。いしだあゆみ演じるマドンナ、かがりのほうが寅さんに惚れてしまう |
人にはいっぱしの専門家を気取って恋愛指南するのに、いざ、自分のこととなったら、本当の気持ちを伝える大切な一言を言い出せません。本気の恋愛関係を持つ覚悟を決めていたなら、こんなにたくさん失恋経験がかさむことはなかったはずなのに。
派手に振られることもあるし、言い出せなくてタイミングを失ったこともあります。シリーズのパターンとしても仕方ありませんが、寅さんが、必ず失恋してしまう理由は、自分の気持ちに素直になれないこと、自分に自信が持てないで、一方的に、相手のことを高く見積もって、憧れすぎてしまうところにありそうです。
どんな自分でも、ありのままの自分に自信を持って、あたって砕けろで、告白する。それさえできたなら、結果に結びついたはずなのに。
一人で泣くダンディズム
『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』(1976年)太地喜和子、宇野重吉が登場する、初心者の方におすすめの一作 |
寅さんは強がって、カッコをつけます。強がり続けるために必要なことは、カッコ悪い姿を見られないこと。
だからなのかもしれませんが、失恋すると、逃げるようにして旅に出ます。リセットするために。もう一度自分を取り戻すために。それには、一人になる必要があるのです。
失恋したからといっても、誰かに泣きついたり、愚痴を言ったりはしません。境遇も失恋も、自分で何とかしなければ抜け出せないのですから。
失恋は、誰にとってもつらいもの。寅さんもきっと、失恋するたびに、身を切るような苦痛を感じながら、一人で旅の空を眺めたはず。
でも失恋は、自分を見つめるよい機会にもなります。数々の失恋を乗り越え、寅さんの個性も磨かれ、魅力も倍増したと思うのですが、いかがでしょうか?
自分を見つめた後は、嫌なことは忘れる
『男はつらいよ』シリーズを見終わると、爽快感が沸いてきます。失恋して、つらさのあまりに旅に出る男の話なのに不思議ですよね。
寅さんが元気に旅路を歩いている風景や、寅さんから家族への手紙のシーンで、映画は締めくくられます。落ち込んだとしても、それは一時のこと。目の前に新しい日、新しい出会いが待っていることを、思い出させてくれます。
爽快感のもうひとつの理由は、寅さんが、親近感を抱かせてくれるキャラクターであること。わたしたちは、誰もが失恋したり、いろいろなことで落ち込んだりしますが、寅さんほど、何度も落ち込むことはありません。
自分だけが辛いんじゃない、と知るとホッとします。程度の差はあれ、みんな同じような経験があるのに、自分だけが、孤独で辛い経験ばかりしてるんじゃないかと思うことってありますよね。そんな私たちを寅さんは、元気付けてくれます。
失恋したからといって、寅さんのようにすぐに旅に出ることはできませんが、私たちの代わりに寅さんが旅に出て、スカッとリセットしてくれるのは快感ですよね。
寅さん流 心の健康のためのキーワード