世界遺産/中国の世界遺産

蘇州古典園林/中国(3ページ目)

マルコ・ポーロが「東洋のヴェネツィア」と称した水の都、蘇州。豊富な水を利用して自然美を再現したその庭園は、「江南の庭園は天下一、蘇州の庭園は江南一」と絶賛された。今回は水の楽園に花開く天下の名園「蘇州古典園林」をご案内します!

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

蘇州最古の庭園、滄浪亭

滄浪亭の竹林。曲線を多用した歩道は一歩進むごとに景色が変わる(一歩一景)。園内には茶館もあって、中国茶を楽しむこともできる

滄浪亭の竹林。曲線を多用した歩道は一歩進むごとに景色が変わる(一歩一景)。園内には茶館もあって、中国茶を楽しむこともできる

世界遺産に登録されている9つの庭園のうち、もっとも長い歴史を持つのが滄浪亭だ。

もともとは10世紀の建築で、11世紀には蘇舜欽という詩人が滄浪亭の名をつけて美しい庭園に仕上げた。蘇舜欽はこの地に左遷されてきたらしいが、この庭に山や川や森や林の美しさを凝縮し、自然を愛でながら余生をすごしたという。その後、改名されたり僧坊になったりして様々に改築されて現在の姿になった。

滄浪亭は水路に囲まれ、池の中に島のようにたたずむ美しい庭園だ。蘇州の庭園はいずれも高壁封閉といって高い塀で囲まれていて、外界と中の世界とを完全に切り離しているのだが、滄浪亭には外を眺めるために造られた書斎がある。ここから外の水路を眺めると、人々が散歩やら釣りをしている姿を見ることができて、これがまた楽しい。

中央には小高い山があり、その周囲を建物が囲み、古木や竹林が散在していてとても素朴だ。派手な湖や石はないけれど、滄浪亭にはとても静かでやわらかい時間が流れている。

太湖石と洞穴がダイナミックな獅子林

花崗岩や太湖石の奇岩が立ち並ぶ獅子林。北京の頤和園と承徳の避暑山荘にも太湖石があるが、清の康煕帝と乾隆帝がこの景色を真似て持ち込んだという

花崗岩や太湖石の奇岩が立ち並ぶ獅子林。北京の頤和園と承徳の避暑山荘にも太湖石があるが、清の康煕帝と乾隆帝がこの景色を真似て持ち込んだという

蘇州の庭園ではよく、ねじれたり、くねっていたり、穴が開いていたりと、不思議な形をした白い石を見かける。太湖石だ。これは近くの太湖でとれる石灰岩で、湖の中やほとりにある石が波に打たれて、数千年から数万年かけて造られたものだ。

この太湖石が林のように立ち並び、あるいは太湖石を山のように積み上げた築山で有名なのが獅子林だ。太湖石の山の中にはたくさんの洞穴が掘られており、まるで迷路のよう。静かだった滄浪亭と対照的に、噴火した直後の活火山の中にいるようなダイナミックな景色を楽しめる。

造られたのは14世紀で、蘇州四大庭園のひとつに数えられている(他は滄浪亭、留園、拙政園)。ちなみに獅子林の名は、獅子に似た太湖石が林のように立ち並んでいたからだとも、創建した中峰禅師が天目山の獅子岩で修行していたためだともいわれている。
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