唐沢・財前五郎もハングリーでない時代で、悩みながら教授戦を戦っていくところなどいい演技をしていると思います。しかし、田宮二郎と比較されるとやはり分が悪い。唐沢寿明にとっては代表作の一つになるでしょうが、田宮二郎は自身が実は財前五郎のモデルではないかと(原作者はそういってませんが)いわれるぐらい同じような人生を歩んでいましたから。どれくらいシンクロしているかを以下の表にまとめてみました。
名前 | 田宮二郎(本名・柴田吾郎) | 財前五郎(旧姓・黒川五郎) |
幼少期 | 両親を亡くす | 父親を亡くす |
後ろ盾 | 引き取られた裕福な祖父 | 養子に入った産婦人科医の舅 |
成長 | 大映にスカウトされ映画スターになる | 若き天才外科医といわれる |
挫折 | 大映社長と衝突し干される | 東教授に疎まれる |
飛躍 | テレビドラマで成功する | 教授選挙に勝ち抜く |
大映で勝新太郎とコンビの『悪名』などで成長し66年、31才で前述の映画版『白い巨塔』の成功でスターにのし上がります。しかし好事魔多し、68年の『不信のとき』で宣伝ポスターの名前を書く順番にクレームをつけたことが、ワンマンで知られる大映の永田雅一社長の怒りをかいクビになります。(ちなみに朝ドラ『オードリー』の舞台、大京映画は時代劇中心で大魔神の巨大人形があるなど大映ぽい)
大映だけではなく映画界全体から干されてしまった田宮二郎はドサ回りでしのぐ一方、有名なクイズ番組『タイムショック』の司会になります。ここで田宮二郎が運がよかったのは映画がちょうど斜陽期になったことで、大映は71年に倒産。結果的に他の映画スターより早くテレビに進出することになります。
本格的ドラマ主演は72年のTBS『知らない同志』から。この後、TBSで『白い影』『白い滑走路』などの白シリーズや昨年リメイクされた『高原へいらっしゃい』、吉永小百合と共演した『光る崖』などでテレビドラマ俳優としての地位を固めます。このあたりのドラマをこの2月、スカパー!のTBSチャンネルで「田宮二郎特集」として放送中です。
そしてフジテレビでドラマを作ることになり、個人事務所にも映画版財前の等身大写真を貼るなど財前五郎に思い入れが強い田宮二郎は「『白い巨塔』をやりたい」といいます。
『白い巨塔』制作中もさらにシンクロ度はあがるのですが、ネタバレになってしまいかねないのででとりあえずこの辺で。そういうバックがあり鬼気迫る演技につながっていくのです。