2/2 ストーリーがある万年筆を所有する [ステーショナリー・文房具] All About

イタリア生まれのブランド、マーレン

マーレン

1982年、イタリアはナポリでマリオ・エスポジット、アントニオ・エスポジット両兄弟によりマーレンは創業された。このマーレンというブランド名は、ドイツが生んだ世界的な大女優マレーネ・ディードリッヒに敬意を表して名付けられたという。創業以来、マーレンが頑なにこだわっていることがある。それは「文字（言葉）の価値は時を超越する。」つまり、文字や言葉の価値は時代を経ても失われない、ということだ。時代を超えて生きつづける大切な言葉を綴るペンだからこそ、心地よく使えるデザイン・機能・カラーなど様々な点に気を配って製品造りが行われている。

マーレンのペンはイタリアレジンと呼ばれる特殊樹脂を多用し、イタリアらしい色鮮やかなボディカラーが特長。その一本一本は熟練工による手作業で丹念に作られている。大量生産にはない細かな仕上げが、同じシリーズのペンであっても微妙な違いを生み出している。また、ペンのボディには、歴史的なデザインモチーフが随所にちりばめられている。例えば、クリップの一部には古代ギリシャ建築の柱の上部によく見られるコリント式柱頭からインスピレーションを受けて作られている。新しさの中にもどこか伝統的なもの、懐かしさのあるものが一本のペンの中に共存している。万年筆ブランドとしては、後発ではあるが、どのブランドとも似ていない、マーレンならではのオリジナリティにあふれている。

イタリアに古くから伝わる果実、葡萄をモチーフに

マーレン　バイタスキー

このマーレンの中で、特に私が気に入ったのが、「バイタスキー」というモデルだ。商品名のバイタスは、ラテン語で葡萄の木を意味する「vitis（ヴィティス）」からとったものだ。

イタリアで葡萄といえば、すぐに思いつくのがワイン。新約聖書の中では、ワインはキリストの契約の血であると言われている。実は葡萄はイタリア発祥の果実で、ローマ皇帝の勢力拡大に伴って各地にワインが広まっていったそうだ。このバイタスキーでは、そうしたイタリアに深いかかわりのある葡萄がデザインモチーフになっている。

まるで、葡萄の実を思わせる美しいカラーにマーブルを織り交ぜたボディ。その中央に葡萄が彫りこまれたスターリングシルバーのマークがひときわ目をひく。ペンの中央にこうした飾りをあしらったペンということ自体大変珍しいが、さらに驚かされるのが、その中央に穴が開けられていることだ。

ボディの中央には葡萄をかたどったマーク

この穴こそ、バイタスキーの鍵を握る部分となる。バイタスキーの名前の通り、ペンとは別にキー、つまり鍵が付属している。その鍵を先ほどの葡萄のマークの穴に入れることで、なんとインクが吸入できるようになっているのだ。

原理としては、ボディの中にゴムチューブ状のインクタンクが備わっている。そのチューブを鍵穴から入れた鍵を押し込むことで、ちょうどスポイトを押し込んだようになり、インクを吸い上げるというものだ。細かな話になるが、鍵を押したときに点で押し込んだだけではゴムチューブをうまい具合に押し込むことができない。そこで、チューブの片面には板がしこまれていて、点で押し込んでも、面でゴムチューブは伸縮するようになっている。

鍵を穴に入れることでインクを吸入するというユニークな仕組み

インクの吸入方法としては、ペン先をインクボトルに浸して、鍵を穴に入れて数回押して、吸い上げるというものだ。つまり、この鍵がないとインクをいれることはできない。

万年筆のインクを入れるという作業は、万年筆に魂を入れるといったら大げさかもしれないが、私はこの作業がとても好きで、特別な儀式と捉えている。このバイタスキーは鍵を使ってインクを入れるということで、より儀式的な気分が味わえそうだ。


よく調整されたペン先は実にスムーズに紙の上を進んでいく。	筆記体勢に入ると、ちょうど葡萄のマークが上にくる

筆記するときには、バイタスキーのトレードマークである葡萄がちょうど上に来るようになっている。それを眺めつつ心豊かな筆記を堪能することができる。

古来、葡萄に込めらた意味合いから、このバイタスキーを重要な契約書へのサインに使うのも最適だろうし、ちょっと一息ついて、ワインでも飲みながら、手紙をしたためるというシチュエーションでもきっと似合うことだろう。