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靴に使う「牛革」を深く考えてみる その2(2ページ目)

今回の「メンズシューズ基礎徹底講座」では、「皮を革にする」鞣し方法の代表例を解説します。伝統的な方法の延長形と、科学技術の進歩から恩恵を受けた方法、いずれも靴のどこに使うか? がキーポイントです。

飯野 高広

執筆者:飯野 高広

靴ガイド

丈夫さに秀でる植物タンニン鞣し!

底材
丈夫で雨に強いレザーソールとして以前から大変定評のある、ジェイエムウエストンのアウトソールです。この底材は典型的な「植物タンニン鞣し」で作られたもので、自社の一部門で原皮から約1年掛けて「革」になります。


最初にご紹介するのは「植物タンニン鞣し」と呼ばれる、植物系の鞣し剤を用いるものです。ヨーロッパで従来からじっくり蓄えられてきた技術の延長線上にある鞣し方法で、文字通り植物から抽出した「タンニン」と呼ばれる成分を活用して化学処理を行います。実は日本人にも緑茶の渋みや苦みの成分としてこれは昔から大変お馴染みの存在で、そのため我が国ではこの方法を「渋鞣し」とも呼んでいます。

近年では赤ワインの渋みの元としても有名になってきたこの成分ですが、革を鞣す場合は南米産のケブラチヨや南アフリカ産のミモザ(アカシアの一種)、欧州産のチェスナット(栗)・オーク(楢)などの樹皮や葉から抽出したものを用います。下処理を終えた原皮を、濃度の異なるこれらのタンニン成分の入った液体で満たされた「ピット」とか「バスリー」などと呼ばれる桶に数日おきに漬け換えてゆくことで、時間を掛けて徐々に「皮」から「革」に変えてゆくのが大まかな製造方法です。その期間は平均で25~90日、用途によってはその後、品質を安定させるべく屋外の桶槽に埋め込むなどして、合計約1年程度掛けて鞣すケースもあるほどです。

こうして出来上がった革は、堅牢性・耐摩耗性・耐伸縮性等に極めて優れ、可塑性・成形性も良いのが特徴です。また、タンニンが日光や油分により化学変化を起こす影響で、特に色調面での経年変化が起こりやすいのも特徴であるものの、柔軟性・弾力性・伸縮性・耐熱性・染色性にはやや劣るので、一言で申せば革の性能に「丈夫さ」や「締まりの良さ」が優先して求められる製品や部材に適しています。よって当然ながら、靴ではアウトソール等の底材用の鞣しとして用いられる場合が主体で、アッパー用にこの鞣し方法で作られたものは現在ではそれほど見かけません。因みにこの方法で鞣された革は、甘いというのか鰹節と言うのか…… 一種独特な香気に微妙に包まれていまして、その点からも「植物のエッセンスがしみ込んでいるんだな!」と妙に実感できます。


次のページでは、「19世紀後半以降に主流になった鞣し方法」について!
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