ツイードにとりつかれた男

世の中にはツイード素材が大好きという人間がいる。ミスター・ツイードこと、杉綾さん(仮名)もツイードに魅せられた一人で、渋谷に店舗を構えるテーラー・ケイドのお客さんでもある。

杉綾さんはガッチリとした体格の穏やかな紳士で、年齢はボク(40歳)とそんなに変わらない。これまでテーラー・ケイドで3着のツイード・ジャケットを誂えていて、現在4着目を製作中だ。

ここに写っているのはすべて杉綾さん(仮名)の私物。左がブルックス ブラザーズ、右がテーラー・ケイドで仕立てたオウンメイク。ヘリンボーン・ジャケットへのこだわりが感じられる。

ここに写っているのはすべて杉綾さん(仮名)の私物。左がブルックス ブラザーズ、右がテーラー・ケイドで仕立てたオウンメイク。ヘリンボーン・ジャケットへのこだわりが感じられる。


それ以前にもブルックス ブラザーズなどの老舗で、数着のツイードのジャケットを購入している。どうしてこれほどまでにツイード・ジャケットを求めてしまうのか?そのあたりをじっくり取材してきました。

「20年以上前に某店で、イージーオーダーで作ってもらったことがあって、それが最初に着たツイードのジャケットでした。ごく普通のグレーのヘリンボーンで、あの素材感に惹かれました」と杉綾さん。

グレーのヘリンボーン・ジャケットのコーディネート。寒くなってくるとインナーに無地のニットを合わせることも。シャツがチェックの場合はうるさくなるので、無地のネクタイでバランスをとる。

グレーのヘリンボーン・ジャケットのコーディネート。寒くなってくるとインナーに無地のニットを合わせることも。シャツがチェックの場合はうるさくなるので、無地のネクタイでバランスをとる。


しかし、このときのジャケットは身体に馴染まず、その後ブルックス ブラザーズでより本格的なハリス・ツイードのヘリンボーンを購入したそうだ。

「じつはこのブルックスのモデルもあまり作りが良くなくて、納得できませんでした。なかなか気に入ったものに巡り合えなかったのが、ツイード・ジャケットを買い続けた理由だと思います」

いちおうフォローしておくと、当時のブルックスは出来・不出来に波があったようだ。現在は大丈夫なようですが。

結局、テーラー・ケイドで誂えて初めて満足のいくジャケットを手にできるのだが、たしかに既製服のなかからジャストフィットのお気に入りを見つけるのは難しい。

杉綾さんがアレコレ探していた時期は1990年代のこと。当時グレーのヘリンボーンのジャケットを作っているメーカーは非常に少なく、彼のようにガッチリした体型だとさらにサイズが少なかったはずだ。

テーラー・ケイドで仕立てたライトブラウンのヘリンボーン・ジャケット。同じ織りでも色が異なれば雰囲気も変わる。

テーラー・ケイドで仕立てたライトブラウンのヘリンボーン・ジャケット。同じ織りでも色が異なれば雰囲気も変わる。


こういう当たり前のジャケットが手に入らないというのもおかしなものだ。

ハリス・ツイードのグレーのヘリンボーンを中心とした着こなし

彼の好みはツイード・ジャケットのなかでも、もっともベーシックなハリス・ツイードのグレーのヘリンボーンである。ちなみに、ボクも数着のツイード・ジャケットをもっているが、茶系やくすんだグリーン系が多くグレーはほとんどない。

その理由を考えてみると、ボクの場合はツイード=英国のイメージが強くて、ブリティッシュテイストのジャケットばかりを買ってきたからだ。ブリティッシュスタイルのツイード・ジャケットにはあまりグレーのヘリンボーンは使わないようだ。

一方の杉綾さんの場合は、アメリカン・トラッドが好みだったこともあって、定番のI型のグレーのヘリンボーン・ジャケットに夢中になったというわけである。

彼のコーディネートがまた泣かせる。白のオックスフォードのボタンダウン・シャツに黒のウール・ニットタイを合わせ、グレー・フランネルのパンツを穿くそうである(号泣)。

無地のボタンダウン・シャツにニット・タイ。寒くなればマウンテンパーカを上から羽織ることもあるそうだ。アメリカ東海岸好みのコーディネート。

無地のボタンダウン・シャツにニット・タイ。寒くなればマウンテンパーカを上から羽織ることもあるそうだ。アメリカ東海岸好みのコーディネート。


真冬になるとジャケットの下にニットベストを合わせるか、マウンテンパーカを羽織る。最近はごく普通のラム・ウールのニットベストが少ないとお嘆きであった(同感&涙)。

足元は英国トリッカーズのカントリー!しかもアッパー(甲革)はトレーディングポストの受注会でオーダーしたというスコッチグレイン(表面にシボ加工のある革)だ!

ときにはチャーチの外羽根式のフルブローグを合わせることもあるとか。ダービー(外羽根式の靴)ということなので、おそらくモデルは「グラフトン」でしょう。また気軽に履けるロークも愛用中とか。

さすがに最近ではグレー以外に茶色のツイード・ジャケットも着るそうで、テーラー・ケイドで既に明るい茶色のヘリンボーンをオーダー済みである。それに似合うパンツということで、オリーブがかったキャバリー・ツイル(厚手の綾織り生地で乗馬用パンツによく使われる)のものを作ってもらっている。

グレーのヘリンボーンとはまた違った魅力があるライトブラウンのヘリンボーン。白のボタンダウン・シャツにストライプのタイ。インナーにニットを合わせてみた。

グレーのヘリンボーンとはまた違った魅力があるライトブラウンのヘリンボーン。白のボタンダウン・シャツにストライプのタイ。インナーにニットを合わせてみた。


なんというトラッドな着こなし!まさに王道中の王道の着こなしである。まるでアメリカ東海岸あたりの名門私立大学の教授のようだ。こういう組み合わせは大好きですねー。

高級服地を使ったスーツを当たり前のように目にする現在において、じつに質素で、しかも賢明な着こなしだと思う。取材中、杉綾さんの人柄がツイードを通してジワジワと伝わってくるようだった。

ツイードの魅力

杉綾さんはツイードに惹かれた理由をこう語ってくれた。「ツイードの魅力はあのゴワゴワした手触りです。着込んでいくとだんだん柔らかくなっていく過程も楽しく、柔らかくなっても、どこかにカタさを残しているところでしょうか。

けっして人工的なカタさではなく、自然が作り出したもののような気がします。人間の感触に凄く合っていると思います。手ごたえのあるものや、時間をかけて噛みしめて味わうものとか、いまの若い世代は苦手なのでしょうか?」

ツイード体質は帽子にまでおよんでいる! 老舗のロックやクリスティーなど英国製ばかり。ジャケット同様にゴワゴワした感触が魅力ですね。

ツイード体質は帽子にまでおよんでいる! 老舗のロックやクリスティーなど英国製ばかり。ジャケット同様にゴワゴワした感触が魅力ですね。


1990年代の半ば以降、すっかりラグジュアリーな服地を使ったスーツが多くなってしまった。高級既製スーツとツイード・ジャケットを同じステージで語っちゃ駄目なんだけれど、最近のラグジュアリー服地至上主義みたいなところはやっぱりおかしい。

スーツでいうとスーパーファインメリノとか、ニットなら内モンゴル産のチャイニーズカシミアだとか、少しのお金があれば贅沢な素材が簡単に手に入るようになってきた。

良質の素材がいつでも手に入るというのは有り難いことなんだけれど、毎日、朝昼晩フランス料理のフルコースじゃ駄目だと思う。ほんと、舌が溶けちゃいます。朝と昼は粗食くらいがちょうどいい。その粗食の代表がツイードというわけだ。

杉綾さんにしたって、年がら年じゅうツイード・ジャケットを着ているわけじゃないだろうし、改まった席にはスーツやフォーマル・ウェアだって着て行くはずだ。メリハリというか、ハレとケがちゃんとできている方なのである。

洋服に精通した年配の方が着るカシミアのジャケットやコート、ラグジュアリーな服地のスーツはたしかに素敵だけど、20代の若い世代にはまだ着てほしくない。

今回はグレーのヘリンボーンの話が中心になってしまったが、世の中には古典柄というものがあって、一度は袖を通してもらいたい。

英国服好きにとって老舗ロックの帽子は憧れ! コレとマウンテンパーカと相性がめちゃくちゃいいのだ!

英国服好きにとって老舗ロックの帽子は憧れ! コレとマウンテンパーカと相性がめちゃくちゃいいのだ!


古典柄とツイード

たとえば、ハウンド・ツース・チェック(千鳥格子)やグレナカート・チェック(グレン・チェック)、シェパード・チェック(小弁慶)、がそうで、英国伝統のこの柄を使ったジャケットやパンツ、あるいはスーツはなかなか味わい深いものがあり、渋い大人好みの服地なのだ。

ハリスツイード協会が認定した証がこのタグだ。ニセモノ防止が目的らしく、このタグは1950年代のもので現在のものとはデザインが異なる。ちなみにの協会、来年でちょうど設立100周年を迎える。

ハリスツイード協会が認定した証がこのタグだ。ニセモノ防止が目的らしく、このタグは1950年代のもので現在のものとはデザインが異なる。ちなみにの協会、来年でちょうど設立100周年を迎える。


スポーツ・ジャケットではガンクラブ・チェックやブラック・ウォッチなども捨てがたく、こちらは何となくアメリカン・トラディショナルの匂いがして、ちょっと若さが見え隠れする。

これらの柄をツイードで織ることもあるし、ヘリンボーンやオートミール、色ネップ入りのホームスパン(ドニゴール・ツイードのこと)といった、ツイードならでは素朴な織りも存在する。

オートミールは大麦柄のことで、ぼんやりした印象の織りが特徴。麦粒柄(バーリーコーン)とも呼ばれている。キャッツ・レッグによく似ているので、まあ同じと考えてもいいだろう。

さらにツイードには種類があって、日本でもお馴染みのハリス・ツイードを筆頭に、ドニゴール・ツイード、チェヴィオット・ツイード、シェットランド・ツイードなど、産地によって名称や特徴が異なるのだ。

以前ベイカー・ストリートが発売していた高級ライン、チェヴィオットのタグ。おそらく服地にチェヴィオット・ツイードを使っていたのだろう。1980年代後半製。

以前ベイカー・ストリートが発売していた高級ライン、チェヴィオットのタグ。おそらく服地にチェヴィオット・ツイードを使っていたのだろう。1980年代後半製。


ツイード・ジャケットを都会で着こなす

これらの野暮ったい服地をそのまま田舎で着ればまさに田園紳士、カントリー・ジェントルマンなのだが、都会で着こなすにはそれなりのテクニックが必要。

テーラー・ケイドの山本さんによると、昔からグレーのヘリンボーンやオートミールがアメリカのトラッドショップ好みのツイードだそうだ。

そういえば、「ティファニーで朝食を」のジョージ・ペパードや生粋のニューヨーカー、ウディ・アレンもツイード・ジャケットのイメージが強く、洗練された着こなしをしていましたね。

さらにスティーブ・マックィーン、ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード、ダスティン・ホフマンなんかもツイードを着ていました。「ダーティー・ハリー」ではイーストウッドもそうでした。

当時の映画スターたちは、あえて野暮ったいツイードをワードローブに取り入れていたのだ。

ここでは、定番中の定番であるグレーのヘリンボーン・ジャケットに似合うコーディネートを考えてみたい。インナーは前述の杉綾さんのようにオックスフォードやピンポイント・オックスフォード(ピンオックス)のボタンダウン・シャツを合わせるのが正解。

通称ピンオックスのボタンダウン。オックスフォードより生地がギュッと詰まった感じ。アイロンをあてないとシワになってしまうけれど、あえて洗いたてを着るのも雰囲気かも。

通称ピンオックスのボタンダウン。オックスフォードより生地がギュッと詰まった感じ。アイロンをあてないとシワになってしまうけれど、あえて洗いたてを着るのも雰囲気かも。


糊のきいたブロードクロスも良しとする意見もあるが、もともと野趣に富んだ服地なので、表情のあるシャツ生地を使って、その生い立ちをコーディネートで残してあげたい。

たとえば、ブロードクロスでも白無地でなくタッターソール柄にするとか、ひと工夫したいところ。

これがビエラ(ウールとコットンの平織りのシャツ地)やコットン・フランネル(綿ネル)のタッターソールだと、カントリー色が強くなってしまう。もちろんカジュアル・ウェアとしてならバッチリである。

合わせるネクタイは杉綾さんと同じウール混のニットタイや、小紋やペイズリー柄がおすすめだ。ニューヨーカーはストライプのシルクのレップタイもするそうだが、それは好みにお任せしよう。

ツイードのスーツというのは最近少ないので、パンツはグレー系のフランネルやツイルを合わせるとしっくりとくる。もっとカジュアルにしたいならチノーズやコーデュロイもいいだろう。

靴は茶系のフルブローグ(ウイングチップ)がもっとも似合う。内羽根式、外羽根式のどちらでもいいだろう。アメリカン・トラッドが好みならコードバン(農耕馬の尻革)のウイングチップもいい。

フルブローグ、アメリカでいうところのウイングチップですね。この靴は野暮ったさが残るので、ツイードとの相性が凄くいい。外羽根式のものだともっとラフになる。1990年代半ばのチャーチ。

フルブローグ、アメリカでいうところのウイングチップですね。この靴は野暮ったさが残るので、ツイードとの相性が凄くいい。外羽根式のものだともっとラフになる。1990年代半ばのチャーチ。


リーガルが作っているジョンストン&マーフィーの5万400円(税込み)のバーガンディーはなかなかカッコいい。素材のことを考えると、値段もまあまあ手頃。

マフラーで有名なジョンストンズ・オブ・エルギンの旧タグ。最近また日本の大手百貨店なんかで取り扱うようになった英国の老舗ブランドですね。ツイードに合わせるマフラーはカシミア100%のものよりもウールのほうがしっくりきますね。そのほうが安いし丈夫だし・・・。経済的です。1980年代製。

マフラーで有名なジョンストンズ・オブ・エルギンの旧タグ。最近また日本の大手百貨店なんかで取り扱うようになった英国の老舗ブランドですね。ツイードに合わせるマフラーはカシミア100%のものよりもウールのほうがしっくりきますね。そのほうが安いし丈夫だし・・・。経済的です。1980年代製。


もう少しキリッとした雰囲気を出したいなら、セミブローグ(ストレートチップ・メダリオン)がおすすめ。形はロングノーズのものより野暮ったいくらいのベーシックなものがしっくりとくる。

反対にゆる~いオフィスなら本革底のスエードのブローグ系か、Uチップというのもお洒落だ。クレープソールだとカジュアル過ぎるので要注意。個人的にはそれにハリソンの地味めのアーガイル・ソックスを合わせると思う。

真冬なら、ツイード・ジャケットの上にコットン・ギャバジンのバルマカーン・コート(ステンカラー・コート)を羽織ってみるのも悪くない。

色は悩むところだが、やっぱりオフ・ホワイト!襟はみんな忘れてるハーフスタンディング! 

マフラーはカシミア100%ではなく、ウール90~100%くらいがちょうどいい。箪笥に眠っている昔のジョンストンズでも引っ張り出そうと思っていて、マフラーもちょっとクタっとしているほうが雰囲気あるからね。

手袋はペッカリーでも、ディアスキン(鹿革)でも、カーフのスエードでもお好きなものをどうぞ。

手前が英国デンツのペッカリーで、奥がイタリアのアルポのスエード。ツイードにペッカリーという組み合わせは不動のものなんだろうけれど、アルポのスエードのほうが好きです(笑)。ペッカリーよりもディアスキン(鹿革)、もっと好きなのがスエードです。未脱脂ウールの手袋もツイードにはよく似合う。ウールは失くしてもショックが小さいし……

手前が英国デンツのペッカリーで、奥がイタリアのアルポのスエード。ツイードにペッカリーという組み合わせは不動のものなんだろうけれど、アルポのスエードのほうが好きです(笑)。ペッカリーよりもディアスキン(鹿革)、もっと好きなのがスエードです。未脱脂ウールの手袋もツイードにはよく似合う。ウールは失くしてもショックが小さいし……


ボクなら質感が好きなカーフのスエードを選ぶ。ツイード+ペッカリーの組み合わせは、あまりにも直球勝負なので、あえて変化球というわけ。

どちらにせよ、ツイードを着たときはどこかにラフさを取り入れるというか、蛮カラな匂いを残すことが大切だ。だから糊のきいたブロードクロスのシャツも、カシミア100%のマフラーもご法度なのだ!

モテオヤジになんかなりたくない!

テーラー・ケイドに行けばかなりのツイードが揃っている。こういうバンチ(生地の見本帳)を見せてもらうだけでも、自分の好みがハッキリしてくる。そんなに敷居は高くないので気軽に行けますよ。

テーラー・ケイドに行けばかなりのツイードが揃っている。こういうバンチ(生地の見本帳)を見せてもらうだけでも、自分の好みがハッキリしてくる。そんなに敷居は高くないので気軽に行けますよ。


杉綾さんのツイード・ジャケットへのこだわりに男惚れしてしまいました。ボクもツイード好きだけれど、彼ほどの質実剛健な精神構造じゃない。間違いなく彼の心はアングロサクソンです(笑)。

ボクと同じくらいの年齢で、ヌメっとしたラグジュアリーなスーツを着て、シャツの第2ボタンまではずしている人とは、たぶん気が合わないと思う。絶対に合わないな~。

それにモテオヤジになんかなりたくないし、むしろ違いのわかる男から惚れられたいです(笑)。ツイードはファッションやトレンドではなく、生き方なんですね。

ツイードを着てネクタイをすると、ん~たしかに地味だ(笑)。女性からはモテないかもしれないけれど、べつにモテるために装っているわけではないので、まあいいか。

男の装いというのは、社会で生きていくマナーみたいなもんだと思っていますから。

20代の若い人たちには絶対にツイードを着てほしい。我々40代が覚えたトラッドな格好をしろといっているわけではなくて、メンズファションの歴史の源流ともいえる素材だから、着て身体で覚えてほしいんです。

あのゴワゴワが柔らかくなっていく感触を!人生縮図みたいなものだから。

こちらはテーラー・ケイドのビンテージの服地ですね。いまでは手に入らない貴重なデッドストックもの。ジャケットやコートに適したものなどいろいろありますね。

こちらはテーラー・ケイドのビンテージの服地ですね。いまでは手に入らない貴重なデッドストックもの。ジャケットやコートに適したものなどいろいろありますね。



というわけで、ながながとツイード話をしてしまった。今回はここまで。

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