それでもバルカにこだわりますか?
ほんの少し斜めに上向く直線的な胸ポケット。バルカじゃないからといって悲観することはありません。photo:石井幸久 |
が、スーツとは本来全体のバランスあってこそ。バタク ハウスカットの「ケイリー・グラント」モデルは、60年代のアメリカンスーツをベースにしているので、イタリア流のディテールテクは重視していません。
胸ポケットは直線的なカッティングになっています。イタリアスーツのお話ならば「船底形に曲線を描くバルカポケット」こそ、なのですが、この直線胸ポケがスーツのフロントの表情をキリリと引き締めます。
もう一度、一番上の全体写真を見ていただけるとわかりますが、このスーツ、フロントダーツがありません。スーツのウエストを絞って、ダビデ像のように厚い胸板を形成するなら、サイドをシェイプしてフロントにダーツを入れ、胸に丸みを持たせて仕立てるのですが「ケイリー・グラント」モデルは、そのようなコンセプトとは一線を画すスーツであることがわかります。
意外!? 袖ボタンは2つです
袖の飾りボタンは2つ。もちろん希望があれば4つでも5つでもお好みでつけられますが。photo:石井幸久 |
で、やっぱり切羽は開いていません。これも希望があれば開けてくれますが、ここは2つに敬意を(…以下略)。「スーツの袖ボタンを開けるのは、カニを食べるときぐらいだ」と言った粋人もいますが、この簡素なデザインが、このスーツが「着る人を引き立てる」といわれる所以でもあるのです。デコラティブな装飾を廃することで、シンプル・イズ・ザ・ベストなスーツとなっているわけです。
腰ポケットの位置にはこだわりがあります
真横に取り付けられたポケット位置は通常よりやや外側に取り付けられています。photo:石井幸久 |
これも独自のバランス感覚を計算したデザインのひとつですが、フロントダーツをとらずウエストシェイプも強くないこのスーツに柔和な表情を与えてくれるポイントです。実際前から見ると、じつにあっさりとした雰囲気なのは、このように細いラペルやポケットのフラップが、じつに主張してこないからなのです。
人によっては、あまりに質素なのではないか、と懸念されるかもしれませんが、グラマラスな太いラペルにフラップポケットがどーんと目立ったスーツを着ている自分を想像してみてください。シガーを咥えたマフィアのボスかなにかのイメージになりませんか? 服装で主張せず、あくまで人物像で主張する。そのために、スーツは控えめすぎてエキストラのようでもいけませんが、渋い演技のできる名脇役でなければならないのです。
もちろんケイリー・グラントは存分に主役を張った名優ですが、彼がいたからこそ、ソフィア・ローレン、イングリッド・バーグマン、オードリー・ヘップバーンも光り輝いたのです。いまならさしずめ、モーガン・フリーマンでしょうか。「モーガン・フリーマン」モデルとは言わず、あくまでバタク ハウスカットは「ケイリー・グラント」モデルですが。
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