スーツより、人を印象付ける控えめスーツ

バタク ハウスカット
ゆったりとした3ボタン段返りスーツ。スーツ8万7150円、シャツ1万6695円、タイ9345円、チーフ3675円(バタク ハウスカット丸の内店 tel.03-3287-5537) photo:石井幸久
代官山のテイラー「バタク」は、モデリストの中寺広吉さんが手がけるビスポークテイラー。ブリティッシュベースのカチッとしたシルエットをベースに、日本人の体型を美しく見せるスーツを仕立てる確かな腕で業界でも評判です。

採寸、パターン起し、仮縫いまで行うオーダースーツが基本ですが、オーダーというと腰が引けてしまう方もいらっしゃるでしょう。価格も20万円以上は見ておかないと。

そんな方にも安心して買える「吊るし」のスーツラインが「バタク ハウスカット」です。伊勢丹新宿店と、新丸ビルのインショップで取り扱われており、気軽にバタクのテーラードスーツを手に入れることが可能です。

ラインは3つ。ロンドンのサヴィルロウらしい伝統的なスタイルを現代的に解釈した「ハウススタイル」。映画『007』シリーズの主人公のように、男らしさとエレガンスを共存させた「ジェームズ・ボンド」。そしてアメリカントラディショナルな「ケイリー・グラント」。

今回ご紹介したいのは、この「ケイリー・グラント」モデルです。若き日のケイリー・グラントは、6ボタンダブルなど英国仕立てのダブルのスーツなどを好みましたが、後年は肩の力の抜けたアメトラスタイルがしっくりと馴染みます。けっして派手なスーツを着ていたわけでもなく、かといってスーツ意外のスタイルのケイリー・グラントも思い出せない。聡明で機知に富み、大人の男の魅力に溢れた名優という印象は誰もがお持ちのはず。そしてそんな「着る人を引き立てるスーツ」が今回ご紹介するスーツなのです。

着心地は保証済みです

バタク ハウスカット
エレガントで優しい印象に見せてくれるのは、丸く自然に落ちるナチュラルショルダーの効能。お堅いサヴィルロウスタイルにはない趣です。photo:石井幸久
丸くきれいに落ちる肩の作りは、イタリアスーツに通じるエレガントな仕立て。素材の良さを引き立てるのも、この肩の丸み部分からよくわかります。ちなみにバタク ハウスカットでは生地は英国製のものを主に使用しています。

最近のモダンスーツはややビルトアップした袖付けと、ややコンケーブした肩のラインがシャープな印象を与えますが、この「ケイリー・グラント」は、ソフトなラインが特徴的です。こういうスーツって、着る人の表情をやわらかく見せてくれるような気がします。

肩パットや芯地は適度に薄く、重厚ではありませんが、そのぶん着心地に配慮したものを使っているようです。着たときに肩が浮かず、腕の動きもスムーズで、重たい印象はありません。腕を上げたときに肩がゴワっと持ち上がってこない点もポイントです。


バタク ハウスカット
ラペルは意外なほどに細身です。当然、Vゾーンには細身のタイをあわせるのがお約束。シャツも襟の開き過ぎないものを選びます。
スーツの表情を決定付けるラペルのデザインですが、「ケイリー・グラント」モデルは、かなりナロウラペルになっています。時代背景は1960年代のアメリカンスーツですから、本来はもうすこし太かったと思われますが、そこはバタクならではの提案というか、アレンジなのでしょう。

ゴージがやや下がり気味なのはクラシックな趣。若さ溢れるデザインスーツは、高いゴージ位置が基本ですが、だからといって、オヤジ臭さは微塵もありません。ナロウラペルとナチュラルショルダーのバランスに、このゴージラインがぴたりとはまります。

ここではナロウタイとタブカラーシャツを合わせてタイトな襟元を表現しています。ラペル幅とタイ幅の組み合わせは、合わせるのが基本ですから。Vゾーンはやや狭めですが窮屈な印象がないのは、上品にロールした段返り3ボタンのラペルの効果といえるでしょう。


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